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小林弘人・ウェブ2.0以降の世界はこう変わった

小林弘人(インフォバーン代表取締役CEO)

2014年03月28日 公開 2014年10月21日 更新

 

情報の意味は「露出量」から「強弱」へ

 

 ウェブ2.0時代と現在の最大の違いは、フェイスブックやツイッターといったSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)がものすごい勢いで台頭したことだ。1つのサービスが何億人ものユーザーを抱えるなどということは、有史以来初である。なかでもとくにフェイスブックはウェブの地勢図を塗り替えてしまった。

 フェイスブックが話題になりはじめた数年前、『フェイスブック若き天才の野望』(日経BP社)という本が出版され、その巻末に私は解説を書いた。しかしそのときにはまだ「実名主義のフェイスブックは日本では受け入れられないのではないか」という声が多く聞かれたものだ。

 しかしいま、個人でも、企業でも、フェイスブックのアカウントをもっているのは珍しいことではないし、実名登録に対して質問されることもなくなった。そしてスマートフォンが普及したことも、ネット社会の変化を加速させた。

 フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアが出現したことで、ウェブは「ソーシャル力」、つまり他人のもっている力をうまく活用するように舵を取り直した。洗練されたアルゴリズムだけで解決すべきことのほかに、情報の垣根を取り払い、人と人とをつなぐことで新たなサービスが生まれてきたのは、ウェブ2.0を経てからの一大潮流だ。

 2000年ごろからインターネットの世界では「セマンティックウェブ」という概念が広がっていた。これは人間の判断に頼ることなく、システム自身が情報の意味を読み解いて処理を行なうという考え方だ。あらゆる表現や形式で情報が読み出せるウェブの理想型である。おそらく未来の人間が、ほしい語句が含まれる文節を検索エンジンが拾ってくるという現在のやり方をみたら、「荒っぽいな」と感じるかもしれない。

 そうした荒っぽさを補完・代替するために前述した「フォークソノミー」や「タギング」と呼ばれる情報の分類・収集技術に人間を代替させたのが、ウェブ2.0の特徴だった。私たちが読み書きをするようなウェブ上の文章にもメタデータ(データによるデータ)といった情報の付与や構造化を行なうことによって、別のシステムがそのメタデータを解釈・分類できるようにする。RSSと呼ばれる情報更新を通知するデータ形式もその1つだ。いずれ、さまざまな情報を効率的に扱えるようになり、相互の運用性も高まるといわれた。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツやウェブの産みの親でもあるイギリスの計算機科学者、ティム・バーナーズ・リーは、当時からセマンティックウェブの可能性を説いていた。

 しかし、それをシステムではなく人間を使うかたちで推し進めたのが、ソーシャルメディアなのだ。夥しい数の情報からその意味を理解し、仕分けをする役割を“顔のみえる人間”に頼ったのである。情報をシステムが収集・分類するだけでは不完全なところに「人間力」が用いられたのだ。

 原則実名のフェイスブックでは、私たちが親近感を覚えるやり方で情報の取捨選択が行なわれている。たとえばあるCGMサイトで「このイタリア料理がうまい」というランキングのトップを発表したとする。ところが味覚にあまりこだわりのない人間がたくさん集まって投票しても、自分にとってほんとうに美味しい店舗が1位にはならないかもしれない。しかし、そのときあなたのフェイスブック内に信頼できるイタリア料理の食通がいて、ほかの友人たちから「あいつの選ぶ店ならハズレがない」という評判があれば、それは何万人の集合知よりも「強い情報」となって伝わってくるだろう。

 情報の選別とは、それがあなたにとって意味のある信号か、あるいはただのノイズかである。これまでのマスコミュニケーションにおいて、情報とはすなわち「露出量」だった。「露出量」は「愛着」や「共感」もさることながら、まず「注目」を集めることに重きを置く。しかしフェイスブックの登場以降、情報は「強弱」に変わった。たとえば、あなたにとって「強い」情報とは何だろうか? それはあなたが信頼を寄せる人からの情報発信だったり、親近感を感じるものだったりするだろう。そして、それは同時にあなたの注目を獲得する。

 この「強弱」は「愛着」「共感」に加えて「信頼」とも密接に結びつく。誰かにとって無意味な情報であっても、別の人にとっては重要な意味合いがあるかもしれない。情報発信に対する「愛着」「共感」「信頼」は人によって異なるのだ。

 言い換えるなら、有名コピーライターやデザイナーが打ち出す言葉や意匠によって注目を集めるのではなく、それがあなたのような人の感性に刺さるかどうかという「強弱」が重要となったのである。フェイスブック上では、あなたがみている情報と友だちがみている情報は当然、違ってくる。そして、そのなかでもあなたがつねにコメントをしたり「いいね!」を押している情報は、あなたを頻繁に追いかけてくる。「エッジランク」という仕分け方法を用いてフェイスブックはあなたにとっての情報の「強弱」を判断し、強いシグナルを選んで露出させるようにしているのだ。


<書籍紹介>

ウェブとはすなわち現実世界の未来図である

小林弘人著

なぜ「社会はウェブをコピーする」のか。「フリー」「シェア」そして「オープン」……インターネットの潮流を知れば未来が読み解ける。

 

<著者紹介>

小林弘人

(こばやし・ひろと)

〔株〕インフォバーン代表取締役CEO

1965年長野県生まれ。〔株〕インフォバーン代表取締役CEO。〔株〕デジモ代表取締役。ビジネス・ブレークスルー大学教授。

「ワイアード」「ギズモード・ジャパン」など、紙とウェブの両分野で多くの媒体を立ち上げる。日本初のブログ出版、オーディオブック、3Dプリント可能なコンテンツなど、つねに新たなメディアのかたちをプロデュース。1998年に〔株〕インフォバーンを設立し、国内外企業のデジタルマーケティング全般からメディアの立ち上げ・運用などを支援。2012年より「日本のコ・クリエーションアワード」審査員長。主な著書に『新世紀メディア論』(バジリコ)、『メディア化する企業はなぜ強いのか?』(技術評論社)。主な監修・解説書に『フリー』『シェア』『パブリック』(以上、NHK出版)ほか多数。

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