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社会

次々と現れる新ウイルス…なぜ21世紀に感染症が大流行するのか

岡田晴恵(白鴎大学教授)

2015年01月15日 公開 2023年01月12日 更新

先進国の大都市は感染リスクに弱い

新興感染症は、微生物自身の進化や変異といった微生物側の原因によって出現したというより、人間の社会活動、経済活動等の“人の行為”の結果や影響によって発生し、それが、人類に脅威を与えている場合がほとんどである。

地球人口が70 億を超え、人という種族だけが突出して激増した地球環境。世界各国の都市では、人々が過密状態で生活している。新興感染症が人口集中都市で大流行を起こして、院内感染が起きれば、医療レベルが進んだ先進諸国であっても医療機能の著しい低下は避けがたい。

そのような強い伝播力をもつ新興感染症としては、咳やくしゃみなどの飛沫で伝播して社会に感染拡大を起こしやすい、新型インフルエンザやSARSがある。そして現在、中東で感染者を出しつづけている中東呼吸器症候群(MERS)のマーズコロナウイルスも強い伝播力を獲得するような遺伝子変異を起こしたならば、リスクの高い新興感染症となるだろう。

エボラ出血熱は、体液や血液の直接接触と近距離の飛沫感染が感染経路として考えられる。

この伝播形式は、インフルエンザ等の上気道感染症の疾患に比較すれば、決して効率的ではない。さらに、エボラ出血熱では、症状の出ていない潜伏期の感染者は、体外にウイルスを排泄しないので感染源となることはない。

いったん発症すれば、重症化傾向が強く、自力で動き回ることは難しく、感染させる可能性のある人は家族や看護人等の身近な人間だけである。

このような特徴をもつエボラウイルスは、感染の拡大速度そのものは決して速くはない。ウイルス学的には、エボラ出血熱はウイルスの封じ込めができる疾患のはずであった。

だからこそ、2014年の流行が起こる以前、ウイルス学的知見に立てば、エボラ出血熱の大規模で広域な流行を予測することは難しかった。私にとっても、2014年のエボラ出血熱の流行の規模は、想定外のことだったのだ。

ウイルスと人、つまり病原体と宿主、この二者の関係のみで感染症の流行を規定することはできない。ウイルスの流行形態には、社会的な背景が色濃く反映される。21世紀の感染症は、ウイルスの性質からすれば大流行するとは考えにくいエボラ出血熱でさえも、これほどの規模の流行を起こすということを我々は心に刻まなければならない。

貧困や医療問題も、西アフリカでのエボラ出血熱の被害を大きくすることにつながったであろう。しかし、日本にあっても、社会が豊かで医療が充実しているからといって油断はできない。

東京や大阪、名古屋、横浜など大都市圏への極端な人口の集中、人の流動が激しい社会環境は、感染症の流行という側面で見ると実に脆弱であり、感染症のリスクに弱い社会的背景を作り出している。

不特定多数の人々が過密に集まって、広域に移動する環境の中に病原体が侵入すれば、流行が拡大しやすいのは自明だ。咳やくしゃみの飛沫で伝播する上気道感染症のインフルエンザ等と比較すれば、接触感染のエボラウイルスの感染効率は悪い。そのエボラウイルスであっても、大都市の社会環境を考えれば「感染しにくい」などと侮ることは危険である。

西アフリカでの流行に対する国際社会の支援が不足し、感染予防対策が十分に機能せずに、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が予測した2015年1月後半にはエボラ出血熱の患者が55万人から最大140万人となるというような大規模な感染が起これば、ウイルスを封じ込めることは不可能で、西アフリカ5カ国以外の諸国にもウイルスが飛び火し、そこでもさらに二次感染、三次感染が起こる可能性が出てくるであろう。

もし、そのような事態となれば、日本へのウイルス侵入も想定内とせねばならない。現在、日本で行っている最大限の水際対策の検疫をもってしても、エボラウイルスの国内への侵入を完全に食い止めることは不可能だろう。

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