1. PHPオンライン
  2. ニュース
  3. THE21 6月号書評から

ニュース

THE21 6月号書評から

『THE21』編集部

2011年05月13日 公開 2022年08月18日 更新

『新版 原発のどこが危険か』

桜井 淳 著
朝日選書/1,365円(税込)

福島原発の事故は
エネルギー政策をどう変えるか

新版 原発のどこが危険か  東日本大震災による福島第1原子力発電所の事故が深刻化している要因は、非常用の炉心冷却系が作動しなかったことだ。それは、非常用ディーゼル発電機が動かなかったことによる。
 福島第1原子力発電所では、非常用ディーゼル発電機は、1~6号機ともに、2台並列されていた。パワーは1台で十分なのだが、起動に失敗する可能性を考慮しているためだ。ところが、今回は2台とも作動しなかった。
 桜井淳氏は、日本原子力研究所の材料試験炉の炉心核計算・原子炉物理実験に10年間、原子力安全解析所で原発の安全解析に4年間携わったことがある。その経験をもとに執筆して1995年に発刊した本に、今回の福島原発についての論考を足したものが、①『新版 原発のどこが危険か』である。桜井氏は、95年の時点で、非常用ディーゼル発電機の起動の失敗や電力ケーブルの火災による「ステーション・ブラックアウト」が炉心溶融事故(メルトダウン)に結びつく危険性を強調していた。
 今回の事故では、津波が施設内に入ってきたために非常用ディーゼル発電機が作動しなかったとされているが、桜井氏は、非常用ディーゼル発電機を冷却するための海水の取り込みに問題が生じたため、オーバーヒートして停止したのではないかと推察している。
 ②『日本の原発技術が世界を変える』は、今回の事故の前、昨年12月の発刊だ。78年にシアロンハリス原発1号機が着工されて以来、新規の原発を建設した経験のないアメリカに代わって、高い技術をもった日本が世界の原発市場で活躍できるし、そうすべきだ、と主張する。二酸化炭素を排出しないため、原発はクリーンエネルギーとしても注目を集めていた。
 ただ、著者の豊田有恒氏は「原発批判派のつもりだ」と述べ、原発の危険性や過去の事故の解説にもページを割いている。③『原発と日本の未来』の吉岡斉氏は、「推進派」対「反対派」という図式は崩壊しており、是々非々の判断がされるようになっていると指摘する。
 吉岡氏は原発を批判するが、それは経済的観点からだ。原発が成立するのは国策民営だからであり、自由主義経済のもとでは忌避されるはずだという。インフラや発電用原子炉の建設コストの高さ、システム全体のコストの不確実性、経営リスクの高さが理由だ。
 今回の事故で、二酸化炭素の排出も危険性もない新エネルギーへの注目が高まるだろう。④『太陽熱エネルギー革命』は、海外ではすでに実用化されている太陽熱発電のプラントについて、2010~2100年で平均年間約25兆円の市場規模になるとの予測を紹介している。その成長もさらに早まるかもしれない。(S.K)

日本の原発技術が世界を変える

『日本の原発技術が世界を変える』
豊田有恒 著
祥伝社新書/798円(税込)

原発と日本の未来

『原発と日本の未来』
吉岡 斉 著
岩波ブックレット/525円(税込)

太陽熱エネルギー革命

『太陽熱エネルギー革命』
菊地 隆・堀田善治 著
日経プレミアシリーズ/913円(税込)

THE21 最新号紹介

THE21 2011年6月号

THE21 2011年6月号

「ノート術」はビジネス・ノウハウの一ジャンルとして定着した感があるが、「ブームに乗ってノートを買ってみたけれど、途中で挫折してしまった」という人も多いのではないでしょうか。ノートはただ綺麗に書くだけでは意味がありません。知的生産に活用してこそ、ほんとうの「ノート活用」といえます。今月号では、ノート術を駆使して仕事の成果を挙げてきた各界のプロフェッショナルたちのノートを特別公開します!

×