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ローカルアベノミクスで地方は再生するのか〔2〕

若田部昌澄(早稲田大学政治経済学術院教授)

2015年03月16日 公開 2015年04月20日 更新

 

 次に、出生率を上げるための政策には相当なコスト、財政支出が必要だということです。出生率上昇のためには、金銭的補助が効果を持つことは知られています。また低所得者層にほど、その効果が見られます。

 人口対策としての移民政策はどうでしょうか。現状では国内に失業者がいます。働きたいと思っている人が全員働ける状況(働きたいのに職がない=非自発的失業が発生していないと想定される失業率の水準)で、かつ労働市場が過熱気味になって売り手市場になったところで、移民受け入れはようやく議論の俎上に上げることができるでしょう。実際、かつて日本で外国人労働者受け入れが議論されたのは、1980年代後半でした。賃金が上昇し、人的資本にさらに投資する状況になることが出発点であることは間違いありませんが、その状況では出生率がどれくらい改善されているかも注目すべき点です。

 そこから先、アメリカのような移民社会をめざすのかどうかについては、かなりの議論が起きるでしょう。ヨーロッパやカナダなどでも移民受け入れ政策は見直しの段階に入りつつあります。

 アメリカで盛んに見られるように、移民として入ってきた人たちが起業し、新しい産業を興すということは、オープンレジームの観点からは非常に望ましいことです。ただ、現状の移民受け入れ議論には「日本人がやりたがらない仕事をやらせたい」というインセンティブが濃厚にあります。「日本から技能を移転する」というお題目で始まった技能実習制度も、実際には劣悪な労働環境が問題視されています。また、技能実習制度の対象業種の選定もオープンではありません。現状で日本には公式の移民政策と言えるものが存在しません。高度技能労働者の受け入れにかぎっています。ただし、公式には移民は受け入れないことになっているけれども、実際にはすでに生活している人たちが存在し、そのような人たちが時に排斥されながらコミュニティを築いています。まずはその現実を直視することが先決です。すでにいる移民の2世、4世の方々への包摂を進め、かつ日本への留学生で日本企業に就職できる人はしやすくするといったところから、国籍を問わずに格差が広がらないように環境を整えながら段階的に進めていくのが現実的ですが、それは人口減少の代替になるほどのボリュームではなさそうです。

 

経済縮小と社会保障費減額の負のスパイラルを脱せよ

 ただ、地方創生や少子化だけでなく、ほとんどの日本の政策論議は、経済がこれ以上成長しないという前提のもとで行われていることは問題です。縮小を前提にするかぎりは、「AをやればBはできない」というトレードオフ関係が生じます。社会保障でも年金と介護、医療の三つの部分が突出してしまって少子化対策にお金が回らないという議論に陥りがちなのは、縮小が暗黙の前提になってしまっているからです。

 このトレードオフを突破するには、やはり経済成長を起こさないといけない。しかし、経済成長させようにも人口が減少しているので、成長できない。この袋小路に陥ってしまうわけですが、じつは人口減少下でも経済成長は可能ですし、都市化で人口の「質」を高めれば、さらに成長軌道を確かなものにすることができるのです。

 経済成長をしない社会は、弱者に厳しい社会です。そうではない社会を維持していくためには、社会の生産性を高めていく必要があり、その際にカギとなるのは教育です。教育にはお金がかかるので、ある程度までは人口の集中がやはり必要になってきます。また、人口減少に合わせて、より効率的に「手当てすべきを手当てする」社会保障制度に変える必要もあるでしょう(参考:鈴木亘『社会保障亡国論』講談社現代新書)。ことに日本の年金制度は少子高齢化に弱い仕組みですから、大改革が必要になります。

 

<著書紹介>

ネオアベノミクスの論点
レジームチェンジの貫徹で日本経済は復活する

若田部昌澄著
本体価格840円

ノーベル賞経済学者ポールクルーグマン氏推薦!
2015年の日本経済とアベノミクスの未来を気鋭の経済学者が完全解説。

 

著者紹介

若田部昌澄(わかたべ・まさずみ)

早稲田大学政治経済学術院教授

1965年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学術院教授。1987年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院経済学研究科、トロント大学経済学大学院博士課程単位取得修了。ケンブリッジ大学、ジョージ・メイソン大学、コロンビア大学客員研究員を歴任。専攻は経済学、経済学史。著書に『危機の経済政策』(日本評論社、第31回石橋湛山賞)、『解剖アベノミクス』(日本経済新聞出版社)。『改革の経済学』(ダイヤモンド社)、『もうダマされないため
の経済学講義』(光文社新書)など多数。共著に『昭和恐慌の研究』(第47回日経・経済図書文化賞)『伝説の教授に学べ!』(以上、東洋経済新報社)、『リフレが日本経済を復活させる』(中央経済社)、『日本の危機管理力』(PHP研究所)などがある。

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