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村田新八と西南戦争―伊東潤の新境地『武士の碑』

2017年09月22日 公開

伊東潤(作家)

※このインタビュー記事は、『文蔵』特集:「幕末・明治小説」の新潮流より、2015年7月14日に掲載したものです。

聞き手・文:細谷正充

 

死に場所を求めて戦った者たちを描く

水戸藩の天狗党を描いた『義烈千秋 天狗党西へ』をはじめ、池田屋事件を志士の視点で追った『池田屋乱刃』、旧幕府軍として戦った大鳥圭介を主人公にした『死んでたまるか』など、立て続けに幕末・明治が舞台の小説を刊行してきた伊東潤さん。『武士の碑〈いしぶみ〉』は、西南戦争にスポットを当てている。作品のテーマや、幕末・明治に対する思いを伺った。
<聞き手・文=細谷正充>

伊東潤『武士の碑』
伊東潤の新境地『武士の碑』
PHP文芸文庫より待望の文庫化
 

「男には、死なねばならない時がある」

――明治を舞台に、薩摩武士・村田新八を描いた『武士の碑』が6月に刊行されました。『死んでたまるか』の主人公の大鳥圭介は「何があっても死なないぞ」と言っていましたが、こちらは冒頭から「男には、死なねばならない時がある」という言葉が出てきますね。

伊東 もちろん、こうしたテーマの違いは意識して書いています。

 この2作は、北の戦い(箱館戦争)と南の戦い(西南戦争)で場所が対照的であるだけでなく、テーマが合わせ鏡のようになっています。

 要するに、日本のために生きなければならない大鳥や榎本武揚と、死に場所を探している村田新八や西郷隆盛。

 戦争のなくなった明治は、西郷一家の時代ではないのです。だからこそ、西郷には西郷にふさわしい最期がある。西郷のように偉大だが無用となってしまった人物は、どこで、どう死ぬのが幸せなのかがテーマになっています。

――なぜ村田新八を主人公に選んだのでしょうか。

伊東 西郷と大久保利通の後継者と目されている村田新八は、平衡感覚に優れた人物だと思うんです。

 カリスマである西郷を前にしたときに、桐野利秋たちは心酔して、西郷が“絶対”になってしまう。そうした人たちの視点からでは西郷は描けない。

 村田新八は、西郷と大久保の間を取り持っていました。実際、彼が欧米に行って日本を留守にしている間に、西郷と大久保は決裂するわけです。つまり2人の緩衝材が村田だったのです。

 そういう人間から見た西南戦争とは何だったのか、彼がなぜ参加したのかという点に、たいへん興味がありました。

――それだけの平衡感覚があるのに、西郷についていってしまうというところが、面白いですね。

伊東 どこで西郷と大久保の喧嘩を幕引きするかが、彼の目的だったと思うんです。

 西郷の政治生命をよみがえらせるためには、とりあえず熊本城を接収して、そこを拠点として明治政府に対して物を申すような形にしたい。しかし戦況がそれを許さない。

 彼は、引くに引けない難しい立場に置かれていったと思います。

――一方、桐野たちは、“西郷教の信者”です。

伊東 西南戦争というのは、愛憎劇に近いものがあるんですね。西郷の取り合いですよ。

 桐野と村田だって取り合いをしているし、もっと高い視点に立てば、大久保もそうです。

――みんな「おいの西郷先生」なわけですか(笑)。

伊東 西郷というのは実に魅力的な人物なので、皆「おいの西郷先生」にしておきたいんですよ。それが、競争や嫉妬を生んでいったのだと思います。

iyashi

著者紹介

伊東 潤(いとう・じゅん)

作家

1960年、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒業。
『黒南風の海――加藤清正「文禄・慶長の役」異聞』(PHP研究所)で「本屋が選ぶ時代小説大賞2013」を、『国を蹴った男』(講談社)で「第34回吉川英治文学新人賞」を、『巨鯨の海』(光文社)で「第4回山田風太郎賞」と「第1回高校生直木賞」を、『義烈千秋 天狗党西へ』(新潮社)で「第2回歴史時代作家クラブ賞(作品賞)」を、『峠越え』(講談社)で「第20回中山義秀文学賞」を受賞。

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