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「いいサッカー」とは? 「勝つサッカー」とは?

2015年11月16日 公開

杉山茂樹(スポーツ・ライター)

PHP新書『攻撃的サッカー』より

 

「いいサッカー」と「勝つサッカー」は別?

 「いい」を理想とすれば「勝つ」は現実だ。理想と現実は別物。理想は現実に負ける。そんな綺麗事は通用しないよ。世間は無言でそう囁ささやいてくる。しかし、ここで問題にしているのはサッカーだ。政治や経済の話ではない。仕事や家族の話でもない。野球やラグビー、水泳や体操でもない。

 サッカーにはサッカーの世界がある。日本の通説が当てはまらない場合もある。とすれば、サッカーサイドに立ってサッカーを見るサッカーそのものへの考察が、必要になる。

 決定力不足と言うけれど、決定力ってなんですかと言いたい。得点力不足ではなぜダメなのか。決定力のほうが訴求力の高い日本語なので、好んで使うのだろうけれど、それでは「不足」はシュートした選手の個人的な問題になる。「決定力不足」は、構造的な問題を個人の責任に押しつけかねない、チームスポーツ、サッカーにおよそ相応しくない日本語だと思う。

 もし、「いいサッカーと勝つサッカーは別だ」としたら、サッカーは世界でここまでの人気を博しているだろうか。ダントツの一番でいるだろうか。

 いいサッカーをしても負けることはある。だが、勝つこともある。では、確率が高いのはどちらか。負けることが多ければ、いいサッカーをしようとする人は減る。よくないサッカーが増えれば、サッカーの娯楽性は下がる。競技の人気は広がらない。

 勝ってくれればどちらでもいいと言い出す人を、全否定しているわけではない。たいていのファンは、そうした側面も持ち合わせている。

 一部残留を懸けた戦いをしているクラブのファン、W杯出場を懸けて戦う日本代表を見つめる日本人は、まず勝利を願う。面白さとか、美しさは二の次。「汚いサッカーでもいいから勝ってくれ」になる。いいサッカーをして敗れれば、「いいサッカーと勝つサッカーは別だ」と、文句のひと言も垂れるだろう。

 だが、それ以外の試合、自分が当事者ではなく中立の立場で観戦する試合には、全く別の視線を投げかけているはずだ。試合が面白くなることをひたすら願っている。あるいは、いいサッカーをするチームを探している。無意識のうちに。

 勝利を願うチームに投げかける視線と、第三者としての立場で投げかける視線と。ファンがサッカーを見つめる目には二種類ある。どちらの頻度が高いかは、サッカーの好き度に関係するが、絶対数が多いのは後者だ。W杯の総試合数は64。そのなかで日本代表の試合は、これまで4試合が最高だ。その気になれば、第三者として期間中、60試合を観戦することができる。

 すなわち第三者の数は、当事者を大きく上回っている。日本代表のプレイや日本代表監督の采配に目を凝らしているのは、日本人と対戦相手の国民だけではない。世界中が注目しているのだ。

 2014年ブラジルW杯で王者になったドイツ、14‐15シーズンのチャンピオンズリーグで欧州一になったバルサ。代表チームとクラブの最新チャンピオンは、単なる勝者ではなかった。「悪いサッカー」で勝ったわけでは全くない。「いいサッカーと勝つサッカーは同じ」であることを証明した、サッカーの普及発展に貢献する勝者だった。

 チャンピオンズリーグ、W杯等々、舞台が大きくなるほど、サッカーに理想を求める声は増す。いいサッカーが目の前に現れることをファンは期待する。

 いまに始まった傾向ではない。近い将来、終焉を迎える可能性も低い。そこで「いいサッカーと勝つサッカーは別だ」と、真顔で言う人に遭遇すると、思い切り違和感を覚えてしまう。

 サッカーには、昔よりいまのほうが格段に面白いという特徴がある。サッカーはやればやるほどボールの扱いが巧くなる競技。技量的に右肩上がりは約束されたも同然の競技なのだけれど、見逃すことができないのは、サッカーを面白いものにしようと考える人たちの存在だ。サッカーは彼らの創意工夫によって進化してきた。ほぼ同じルールの枠の中で。まだまだ進化の余地を残している。

 彼らとは監督そのものになるのだけれど、なかでも普及発展、娯楽度のアップに尽力してきたのは、攻撃的サッカー系の人たちだ。

 いいサッカーと勝つサッカーは別物。いいサッカーをしても勝たなければしょうがない。目の前の試合だけでなく、そうした世間の常識とも、彼らは戦ってきた。敬意を払わずにはいられない。現実論に圧されそうになりながらも、理想を貫いてきた彼らのような存在があってこその現代サッカーであることは、サッカーの歴史が証明している。

 「これからは、指導者という立場でサッカーに恩返しがしたい」とは、現役を引退し、監督やコーチをめざす人がよく口にする台詞だが、サッカーに恩返しすることは簡単ではないのだ。高い志こころざしが必要だと思う。この監督は、サッカーの普及発展に欠かせない人物なのか。チェックしたいポイントだと思う。

 現在のサッカーはなぜ、存在するのか。サッカーはなぜ、とてつもなく面白いのか。ファンとして、サッカーにもっとありがたみを感じるべきではないか。

 攻撃的サッカーが果たしてきた役割は大きい。ここで改めて、念を押したいと思います。

著者紹介:杉山茂樹
1959年、静岡県生まれ。大学卒業後、フリーのスポーツライターとして、スポーツ総合誌やサッカー専門誌などで執筆。海外取材も豊富で、オリンピックには夏季・冬季あわせて9回、FIFAワールドカップには8回、UEFAチャンピオンズリーグにいたっては、300試合以上の観戦取材歴がある。著書に『ドーハ以後』『闘う都市』(以上、文藝春秋)『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(以上、光文社新書)『日本サッカー現場検証』『日本サッカー偏差値52』(以上、じっぴコンパクト)『ザックジャパン「頭脳的サッカー」で強豪は倒せる』(PHPエディターズ・グループ)『3-4-3』(集英社新書)などがある。

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