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「経済はテレビでチェック」が遅れてしまうワケ

伊藤洋一(住信基礎研究所主席研究員)

2011年10月06日 公開 2022年12月26日 更新

伊藤洋一

「かっけ反応」の報道バターン

カメラの視角は人間の目に比べれば著しく狭いし、いつも全体を映そうとして撮っているわけにもいかないので、これはカメラの避けられない欠陥と呼べる。だから見ているほうとして、テレビにはそういう限界があることを十分認識しておくべきだ。

テレビの報道とマーケットの関係には、いくつかの興味深いケースがある。たとえば地震。大部分の日本のテレビは、特に日本で起きた震度はすべて速報し、その地震が大きいとNHKなどは地震速報一色になる。

そのとき、しばしば起きるのは「円売り」だ。「日本が地震」→「日本経済に打撃」といった定まった連想が働くからだ。

これを英語では「knee-Jerk reaction」と呼ぶ。訳せば「かっけ反応」だ。大きな地震で円安になると私はいつも、「またか」と思う。しかし日本の地震で一時的に円が安くなっても、大部分のケースにおいては実態が明らかになると同時に、日本円はもとの水準に戻る。

それは、地域色の強い地震がいくら大きくても、日本経済全体が大きな打撃を受けるようなものではないからだ。地震ばかりではない。「これがあったら円安」「これが起きたら円高」といったknee-jerk reactionのパターンは、市場ではいくつかある。

過去の例を言うと、貿易摩擦は通常においては「円高」がかっけ反応の結果である。「摩擦の深化→海外諸国の円安批判→円高圧力」という連想が働くからだ。

もしそうだとしたら、情報の読み方の常道として、「この騒動はいずれ、より内容が理解されて、バランスのとれた方向に落ち着く。よって市場に対する影響力は割り引いて考えねばならない」ということになる。

こうした市場の癖を覚えておくことは非常に重要だ。私の経験から言うと、企業の不祥事があると、その反応としてはまずその企業の株式が売られる。

しかし、「では一体その不祥事は、どのくらいその会社の将来に影響するのか」という見直しが入って、「それほど大きなことではないかもしれない」と買い戻されることが多い。

不祥事が起きれば、企業だってそれを乗り越える努力をする。だから、「不祥事で下がったところは買い」が市場の一般的な知恵だ。

 

テレビは経済に弱い

テレビで特に気をつけなければならないのは、テレビは全体的に見れば「経済に弱い」ということだ。これは、良い映像がなければ成り立たないという制約からくる。

株価には株価ボードがあり、為替にはブローカーの取引仲介作業の絵を使えばいいと思うが、それらの絵を長く、興味深く見せることは容易ではない。構図としては単純で変化に乏しいからだ。

テレビ局を見ても、テレビ東京、日経CNBCは「経済」や「マーケット」を中心に据えているので別だが、その他の局は大部分がドラマやバラエティが番組の中心であり、ニュースも社会・政治ネタが多い。解説者も経済畑の人は少ない。

私がここ数年間ずっと出ているテレビ朝日の『やじうまプラス(現やじうまテレビ!』を見ても、経済を詳しく解説できるのは金曜日を通じて18人のコメンテーターがいる中で私だけだ。

その結果、経済に関する特集ビデオなどはほぼ必ず、私がいる木曜日に放送され、それに私がコメントを付けるという形を取った。

そういうテレビ局が経済ネタを扱うときは、そもそもそのネタが非常に大きなものか、テレビを見ている主婦の関心が持てる話題であるか、政治や社会に絡んでいる問題のケースが多い。

景気悪化とか極端な為替相場の変動などである。しかし、テレビには厳密に「時間的制約」がある。テレビとは、一人の人間が1分間喋ると限りなく長いと感じる代物だ。

よって、その短い間に複雑な経済問題を分かりやすく語らねばならない、という強い制約が存在する。そのために、経済に詳しい人には、「あんなことしか喋れないのか」と言われてしまうことも出てくる。

VTRとその短い喋りでの経済報道は、はっきり言って不満足なケースが多くなる。

だからテレビが大まじめで経済問題を論じているときには、それが大きな問題であるものの報道内容には限界があると認識し、いろいろなその他情報源、たとえば新聞、雑誌、ネットなどで補完するようにしたい。


itoyoichi120.jpg 伊藤洋一 (いとう よういち)
住信基礎研究所主席研究員。
1950年、長野県諏訪市生まれ。1973年、早稲田大学政治経済学部卒業。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。
著書に『日本力』(講談社、現在は講談社+α文庫に所収)『ITとカースト インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新開出版社)『カウンターから日本が見える』(新潮新書)『上品で美しい国家』(共著、ビジネス社)、訳書に『グリーンスパンの魔術』(日本経済新聞社)『欧州の挑戦』(時事通信社)などがある。
〔伊藤洋一公式サイト〕 http://arfaetha.jp/ycaster

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