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働き方改革にみる労働CSRの新たな側面

水尾順一(駿河台大学経済経営学部教授)

2017年08月26日 公開 2017年08月28日 更新

利益の追求だけが企業命題とされたのは今は昔の話。組織活動は社会に与える影響に責任を持ち、消費者はもちろん、株主・投資家・地域社会などの利害関係者の要望に適切に応えることが求められている。松下幸之助は常々「企業の社会的責任」を説いてきた。では、現代社会で企業はどのような役割を果たすべきだろうか。

水尾順一(みずお・じゅんいち)
1947年生まれ。駿河台大学経済経営学部教授、博士(経営学)。神戸商科大学(現・兵庫県立大学)卒業、株式会社資生堂を経て1999年駿河台大学へ奉職、現在に至る。専門はCSR、経営倫理論など。株式会社アデランス社外取締役、株式会社西武ホールディングス企業倫理委員会社外委員。日本経営倫理学会副会長、経営倫理実践研究センター首席研究員、2010年ロンドン大学客員研究員。著書に『サスティナブル・カンパニー:「ずーっと」栄える会社の事業構想』(宣伝会議)他多数。

 

「守り」から「攻め」へ

今、企業に求められる 責任と課題とは

現在、働き方改革の必要性が叫ばれています。CSRの視点から従業員の働き方を変えようということで、労働CSRの領域ともいわれます。

これまで問題とされていた過酷な労働や長時間労働など、ワーク・ライフ・バランスを無視した働き方を改善しなければいけません。

仕事と生活のバランスを求め、快適で豊かな生き方につながるスマートな働き方を指す意味で、「スマートワーク」というキーワードで表現することもできます。従来の仕事を見直し、無駄な作業や会議を削除・削減するなど、高い生産性と効率的な働き方が前提となります。

そのためには、トップのコミットメントによる強いリーダーシップと現場発の改革が前提で、「トップと現場、両者の一体化」によりスマートワークは実現します。

スマートワークを導入しながら働き方改革を実践する会社の一つに、IT系でシステムインテグレーターのSCSKという会社があります。同社は、一九六九年住商コンピューターサービスとして創業、2011年に同業のCSKを吸収合併しました。

IT系企業といえば残業が多く長時間労働というイメージがありますが、働き方改革により同社は残業を削減しました。

同社のCSRレポートによれば、仕事のために社内に泊まり込むなど長時間労働が常態化していました。

この様子にトップは残業を減らすよう積極的に発言していましたが一向に減りません。その背景には、納期と業務量に追われ、残業など減らせないという諦めがあったのです。加えて、残業を削減すれば残業代が減り収入減に繋がることから、積極的に残業を減らそうとするインセンティブが働かなかったこともあります。

住友商事副社長から移り、経営にあたることになった中井戸信英社長は、そこに切り込みました。

彼が主張したのは、「残業削減は会社のためではない。社員の健康のためだ」。だからこそ、目標残業時間を定め、それが達成できた場合には、減少した収入を、ボーナスで還元したのです。従業員が出向している取引先にも残業削減の協力を求めました。

こうした経営の姿勢に対し従業員も、これまでの仕事の進め方を根本から見直すなど、業務の効率化に果敢に挑戦。その結果、2007年に36時間あった残業時間は、2015年には18時間に減少(現在は34時間または20時間のみなし残業分を給与として支給)、有休取得率も2011年に78.4パーセントだったのが、2015年には96.3パーセントまで上昇しました。

残業減で業績の悪化が懸念されましたが、業務効率は大幅に改善。営業利益率も五パーセント台から九パーセント台に上昇しました。スマートワークが成功した好事例といえます。

以上みてきたように、CSRの重点課題は、時代の要請に応じて様々に移り変わります。ただし、基本は不変だということを忘れてはなりません。
 

※本記事はマネジメント誌『衆知』2017年5・6月号に掲載したものです。

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