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#一行怪談創作部 優秀作品発表!

2017年10月30日 公開

吉田悠軌

応募総数6718作! 選ばれた作品は?

2017年8月30日から9月29日にかけてTwitterで開催された「一行怪談創作コンテスト」。投稿作品 6718作の中で特に優秀だった作品について、『一行怪談』の著者 吉田悠軌先生がコメントを寄せてくださいました。

 

「怪談」を「一行で書く」ということ

 どうも、吉田悠軌です。今回の一行怪談創作部、軽い気持ちで始めたイベントだったのですが、応募総数6718作という、予想をはるかに超える盛り上がりとなり、たいへん驚いています。ややこしい応募規定を満たしたものだけでその数ですから、実際の投稿はそれ以上の数があったのでしょう。ありがとうございます。

 そして全体のレベルも高く、もはや上位の1000作くらいは甲乙つけがたいと言えるものでした。そこから5作だけ選べというのも酷なのですが、ここは私の独断と偏見と趣味とノリで選ばせていただきました。なるべく6718作を何度も精読・精査しようとしましたが、前後する他作品との偶然が及ぼす比較、ひたすら読み続けていった私のコンディションも作用してなくはないとも思います。ごめんなさーい。

 前置きはこのあたりにして、とりあえず優秀作5作品の発表から。

 

息子がベッドの下に何か隠したので、男になったんだなぁと嬉しいような恥ずかしいような気持ちでこっそり覗いたら、妻と目があった。
ZZ ZZZ(ズズ ズズズ)@アレジゴク (@arezigoku)

 

手のひらに顔を書く遊びを、手のひらに書かれた顔が勧めてきたので断った。
Bar (@Bar_55987191)

 

祖母の棺に「寂しくないように」と入れておいた家族写真が、火葬後、キレイに焼け残っており、写真の中の遺された家族の顔に、一、二、三…と番号が書かれていた。
うをりんぐ (@uworing)

 

夏休みの登校日、海で溺れて死んだクラスメイトに黙祷を捧げることになったが、やたらに長いとおもって顔を上げると、全員が俺のことを見て満面の笑みを浮かべていた。
ヤマギシルイ (@rouis_ymgs)

 

規則正しい包丁の音で目を覚まし、寝惚け眼で起き上がると、隣の妻が青い顔でわたしを止めた。
クロイ匣  (ハコ)  (@kaidan_night)

 

 1作ごとへのコメントはいったん置きまして、まず総評から述べていきましょう。

 今回は「一行怪談」創作コンテストなので、「一行」および「怪談」という2つの形式が絶対必要条件となります。

 ただ、応募作品の中には「怪談」となっていないものも含まれていました。「怪談」の恐怖とはなにかと言えば(これも私の独断と偏見ですが)、「我々の現実世界と異世界とが触れ合う予感」です。例えば、頭のおかしい人に暴力をふるわれる恐怖、なにかの手違いでそれ相応のひどい事態になる恐怖といった、現実原則から外れない現実的な恐怖は「怪談」ではありません。かといって、現実原則から外れた超常現象やモンスターがドン!と現れても、やはり「怪談」ではないのです。超自然的なことが起こる描写も大事ですが、それだけでは「怪談」たりえず、むしろそこに至る「予感」の方が大事なのです。前者はサスペンス・ホラー、後者はスプラッタ・ホラーであり、もちろん私もそうしたジャンルは大好きなのですが、「怪談」とは立ち位置が違っていることをご理解いただきたい。

 よく「幽霊よりも生きている人間の方が恐い」と言う人がいますが、それは論点が混乱しています。現実的な恐怖・日常生活から共感しやすい恐怖というモノサシなら、そりゃあ幽霊よりも殺人犯やストーカーに襲われる方が恐いですよ。でも「もしかしたら私たちの現実世界に見知らぬ異世界が侵食してきているのでは」という怖さは、どんなに凶悪でも生きている人間相手には抱きませんし抱けません。こと「笑い」については日常的に接しているので、様々なタイプの「笑い」があり、様々なジャンル形式で展開されていることを、皆さん身にしみて理解しているでしょう。恐さ・怖さとわざわざ漢字が異なるように、恐怖もまた数限りない感情のヒダがあります。それらはグラデーションをなしており、クッキリキッパリ分かれている訳ではないのですが、少なくとも「怪談」を書くからには、「怪談」ならではの方向性を目指す態度でないといけません。

 ここは怪談論を述べる場ではないので、この辺りで止めておきましょう。ただ一つだけ、別に怪現象が全く起きていなくても、「異世界の予感」があれば怪談たりうるということは注意しておきます。例えば次の作品

 

空き巣に入られたが盗られたものは何もなく、ただわたしの手袋が六本指に縫い直されていた。
にぬき (@honnor1_fuyuki

 

 は、物理的に可能なことしか起きていません。ただし異世界(あちら側)が現実(こちら側)へ侵食する予感が漂う、怪談の芯をくっている文章だと思います。

 そういった意味で、優秀作に選んだZZ ZZZさんの作品は、そういった異世界/現実の侵食と転換が、鮮やかに描かれています。

 

息子がベッドの下に何か隠したので、男になったんだなぁと嬉しいような恥ずかしいような気持ちでこっそり覗いたら、妻と目があった。
ZZ ZZZ(ズズ ズズズ) 

 

 一見すると恐怖よりも笑いの方にシフトしている印象も受けます。するりと読めばブラックな艶笑譚といったところです。しかし一点、息子が妻/母をベッドの下に隠したという行動によって、いきなり怪談がたちあがっていきます。語り手の父親がエロ本だと誤解したからには、片手でサッと隠したはず。もちろん大人1人をそうやって扱うのは不可能なので、妻/母は人外のものであることが分かります。すると息子と妻の秘密の営みは、単なる近親相姦とはまったくもって話が異なってくるでしょう。はたして妻/母は本当に妻であり母なのか? あるいは息子は?そして父親たる自分自身は? 我々家族にはいったいどんな秘密があり、そもそも我々は何なのか?「ベッドの下に隠す」一瞬の動作一つで、ブラックな笑いがダークなおぞましさへと変貌するのです。

 ちなみに失礼ながら、ZZ ZZZさんがそこまでの作意を持って書いたのかは不明です。もっとも本人の意図がどうなのかはあまり関係ありません。「怪談」とは他ジャンルよりも、無意識の領域(個人の無意識・社会全体の無意識ともに)の作用が重要な表現形式だからです。

 さて、今回ひょっとしたら「怪談とはなにか」よりも重要かもしれない「一行(一文)で書く」という形式について。ワン・センテンスだけというルールは、ただ「短い文章だからこその面白い超短編をつくる」という訳ではありません。これはおそらく、ほとんどの人が意識的には理解していないと思います。「一つの文」とは一つの筋道に限定して語ること、一つの切り取り方によってある情報を語ることを意味します。言語そのものにおいて、一つの構文の文法は(基本的には)そういったルールで成り立っています。一見堅苦しく思えるかもしれませんが、このルールを無視すると「一行(一文)で物語をつむぐ」楽しみがしっちゃかめっちゃかになってしまうのです。句点をつけなければいいだろうと、二文・三文を強引に一文にした作品もありましたが、それならば無理して一文構造に落とし込むのではなく、二文・三文の超短編、あるいはそれよりも長いショートショートにした方が作品の質は向上するはずです。

 私は『一行怪談』凡例において「詩ではなく物語である」としましたが、自分でもこのルールが最も重要だと考えています。私が『一行怪談』を制作する上で心がけていたのは、「俳句や短歌(つまり、詩)にならないように」「散文であることを意識する」ということ。これは決して五七調にしないという単純な話ではありません。五七五七七の音でつくったからといって必ずしも短歌になる訳ではないのです。物語とは「あるものがあるものに変わる筋道」そのものです。○が×して、□だから△となった、▽は本当は◇なのに◎だけ☆だった、などなど……。AがBを経てCとなる、変化の筋道の順序が追われていることが肝要です。詩は逆に、AがいきなりCに飛躍するところに素晴らしさがあります。だから「詩ではなく物語である」とは「飛躍ではなく筋道である」と言い換えることも出来ます。そして一行怪談の場合、内容面としては日常から飛躍した不可思議を描く「怪談」なのだから、その叙述については順序正しく、論理的整合性がとれている方がよい。様々な意匠を凝らすことができる長めの作品ならまだしも、一行怪談のような短いワンテーマもので(内容の)飛躍と(叙述の)飛躍を重ねると、ブレブレになってしまうと思いませんか。

 

手のひらに顔を書く遊びを、手のひらに書かれた顔が勧めてきたので断った。
Bar

 

 は、真ん中の読点を境に、突如として世界が反転するような飛躍があります。しかし叙述の仕方はこれ以上ないほどシンプルな構文で、なんの飛躍もありません。それはまた内容面においても同じことが言えます。「手のひらに顔」という最も身近な日常である自分たちの身体が出発点だからこそ、ただ「AがBとなる(手のひらが顔になる)」という簡素な変化を筋道だって述べるだけで、相当の恐怖となるのです。

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