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生き方

「ネットで他人の批判ばかりしている人」に待ち受ける“悲しい現実”

堀田秀吾(明治大学教授)&吉澤恵理(医療ジャーナリスト)

2020年09月24日 公開 2022年07月05日 更新

 

SNSの誹謗中傷が他人を傷つけると同時に、自分の脳へもダメージ

不安を言葉に出すこと自体は、不安を軽減する効果もあると言われる。

「ネガティブな感情をSNSで吐き出すと、実際に気持ちが楽になるという研究結果もあります。北京航空航天大学のファンらが、中国・アメリカ・オランダの研究者と共同で行ったもので、7万4487人のtwitterユーザーを対象にした調査です。

結果としては、ネガティブな気分のときに自分の気分に関してつぶやいた後は、10分ほどで通常の気分に戻り、それが1.5時間程度続くことが分かりました」

SNSで不安や不満を「吐き出す」ことはそこまで悪いことではないが、他者に向けられるとなると話は違う。

「人は、匿名性が高い状況では、極端な言動に出やすくなることが社会心理学ではよく知られています。SNSは、一般的に匿名性が高いため、言いたい放題になりやすく、攻撃機制によって不安や不満を解消する傾向がある人は、行き過ぎて誹謗中傷にまで発展してしまうわけです」

昨今の自殺の報道を見ても、誹謗中傷が他者に向けられた時に及ぼす影響は大きい。

「人間の脳は、"ことばの暴力"を受けると機能が損なわれてしまうことさえあります。ハーバード大学医学部のトモダらの研究によると、実際にぶったりけったりという身体的な暴力がなくても、暴言などの"ことばの暴力"だけでも脳が萎縮しまうという研究結果を公表しています。

つまり、ことばの暴力は、文字通り「暴力」で、実際に脳に「ケガ」をさせて、働かなくしてしまうものなのです」

また、誹謗中傷の影響は発する側にもあるということが最近では解明されている。

「"脳は主語を区別しない"と言われています。他人に対して吐いた暴言は、結局自分の心、そして身体機能まで傷つけることになります。いわば、自傷行為でもあります。

たとえば、東フィンランド大学のネウヴォネンらが行った、622人を対象にした認知症の分析、および1146人を対象にした寿命の長さの分析によれば、高齢になると他者に対して不信感を抱く傾向がある人ほど、認知症のリスクが約3倍も高いということが分かったというのです。

他人に対してネガティブな感情を抱くことは、知らず知らずのうちに自分自身の脳にもダメージを負わせているということです」

暴言が脳へ悪影響を及ぼすことは様々な研究から明らかであるが、ストレスが多い現代にネガティブな感情を抱かず聖人君子のように生きることは難しい。しかし、ネガティブな感情に支配されないよう自身をコントロールする方法がある。

「ネガティブな感情をSNSで吐き出すと気持ちが楽になるという研究結果を紹介しましたが、他者に対して誹謗中傷するのではなく、日記でも書くつもりで自分の感情を書き出すようにしてみるのは悪くないようです。

ただ、SNSは、長い時間利用する人ほど精神的に不健康である傾向も明らかになっています。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのケリーらによる若者1万人以上を対象に行った調査で、ソーシャルメディアの利用時間が長い人ほど鬱になる傾向が見られ、特に男性よりも女性のほうがその傾向は強かったそうです。

ですから、SNSを利用する場合も、半自傷行為でもある誹謗中傷などに時間とエネルギーを費やさず、かつあまり長い時間しないようにすることが賢明でしょう」 

SNS新時代を生きる我々はそのリスクを十分に理解し活用していかなければならない。決してSNSがネガティブな感情を爆発させるツールではないことを改めて考える必要があるのかもしれない。

【吉澤恵理(よしざわ・えり/薬剤師、医療ジャーナリスト】
1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業(現、東北医科薬科大学)。薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

 

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