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「売上しか誇れない企業」の先行きが危ぶまれるワケ

泉貴嗣(CSRエバンジェリスト)

2021年01月27日 公開 2022年10月20日 更新

泉貴嗣

「雇用と納税、法令順守だけでOK」という考えを捨てる

雇用と納税、法令順守は企業がESG問題を予防するための重要なCSR(企業の社会的責任)です。これら3つの責任は、企業の存続に不可欠な「守るCSR」の根幹をなしています。

しかし、ビジネスの成長とリスク低減という観点から見れば、「3つの責任だけを果たせば安心」だと考えてしまうのは、次のような理由から危険だと言えます。

(1)3つの責任はESG問題の予防、企業の存続といった「守るCSR」機能が中心であり、それ自体が価値を創造するわけではない
(2)CSRの範囲を3つの責任に限定すると、ESG問題を価値創造につなげる「伸ばすCSR」への対応が困難になる

3つの責任の履行は、ビジネスを行う際の「最低限のリスクマネジメント」に過ぎません。持続可能な企業には、「守るCSR」と「伸ばすCSR」の両立が不可欠なのです。

重要なことは、「守るCSR」を基礎としながら、「伸ばすCSR」によって新しい成長機会を追求することです。いつまでも最低限のリスクマネジメントに留まっていると、ESG問題の深刻化に伴って登場する新しいリスクや社会的責任/要請に対応できません。

そして、ESG問題をビジネスチャンスとして捉えることが困難になります。

だからこそ、雇用と納税、法令順守だけに自社の責任を限定して安心するという危険な考え方から訣別する必要があります。

自社を存続させ、ビジネスの持続可能性を高めるためにも、これからは3つの責任を基礎としつつ、自社が対処すべき経営課題をSDGsの観点から見直すことが不可欠となります。

 

「給料を払えば人は働く」という考えを捨てる

誰しも、おカネがなければ生活することができません。そして多くの人にとっておカネを稼ぐ手段は、企業などで従業員として働くことです。しかし、人はおカネ「だけ」を目的に働いているわけではありません。

人は仕事を通じた「自己実現」や、「承認欲求の充足」を求めています。これらは一般に「やりがい」と呼ばれるものであり、正確な賃金の支払と同じく、労務管理の根幹にあるものです。

人は社会的な生物です。だからこそ、仕事という社会的な行為を通じて人生の目標へ近づくことができなかったり、他者から認められなかったりすればモチベーションを失い、仕事のパフォーマンスも低下します。

つまり、いくら給料を支払っても従業員の「やりがい」につながる働き方や労働環境を提供できなければ、人材の定着や育成に困難が生じます。そして組織的なパフォーマンスを発揮できず、企業価値の低下を招くことになるのです。

この「やりがい」の提供は、不況期では平時以上に重要性が増すことになります。不況期は不当な労働力の買いたたきが発生しやすくなります。それは、不況期を共に耐え抜くパートナーであるはずの従業員のやりがいを奪うだけでなく、反感を買うことにつながります。

その結果、企業は厳しい社会的批判にさらされ、企業価値が損なわれることになるのです。特に従業員個人がSNSで広範囲に情報発信することが可能な現代社会において、そのリスクは現実的なものです。

SDGsの時代において、企業は平時の「給料を支払えば人は働く」、不況期の「雇ってもらえるだけでもありがたいと思え」という考えを捨て、常に従業員に対して「具体的な敬意」を払うことが求められるのです。

 

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