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禅を学ぶには「初心者の心」を手放してはいけない理由

鈴木俊隆、(翻訳:藤田一照)

2022年10月06日 公開 2023年12月15日 更新

禅を学ぶには「初心者の心」を手放してはいけない理由

スティーブ・ジョブズが実践していたことでも有名な「禅」。禅の修行は難しいと言われますが、その難しさは、いかにして「初心者の心」を持ち続けられるかにあると僧侶の鈴木俊隆氏は語ります。

※本稿は、鈴木俊隆著、藤田一照訳『[新訳]禅マインド ビギナーズ・マインド』(PHP研究所)から一部を抜粋し、編集したものです。

 

禅の修行の難しさ

禅の修行は難しいと言われますが、その理由については誤解があります。禅の修行が難しいのは、脚を組んで坐ることが難しいとか、悟りを得ることが難しいからではありません。

根本的な意味において、禅の修行が難しいのは、私たちの心や修行を純粋なままに保ち続けることが難しいからなのです。

禅宗は中国で成立した後、いろいろな仕方で発展しましたが、同時に純粋さを失っていきました。私は中国の禅や禅の歴史について語りたいのではありません。私にとって関心があるのは、皆さんの修行が不純なものにならないように手助けをすることです。

日本には「初心」という言葉があります。それは、「初心者の心」という意味です。修行の目標とは、常にこの初心者の心を保ち続けることなのです。たとえば、「般若心経」を一度だけ唱えたとしましょう。それはとてもいい唱え方であったかもしれません。

しかし、もし二度目、三度目、四度目、またはもっとたくさんの回数を唱えるようになると、皆さんに何が起こるでしょうか。唱えることに対して持っていた、もともとの態度を簡単に失ってしまうかもしれません。それと同じことが、皆さんの他の禅の修行においても起こるでしょう。

しばらくの間なら皆さんも、初心者の心を持ち続けることはできるでしょう。しかし、1年、2年、3年、あるいはもっと長く修行を続けていると、多少の上達は見られるでしょうが、もともとの心が持っていた無限の意味を見失いやすくなります。

禅を学ぶ者にとって最も大切なことは、二元論に陥らないことです。私たちの「最初の心」は、すべてのものをそれ自身の内に含んでいます。それは常に豊かで、それ自体で満ち足りています。皆さんは、それ自体で満ち足りている、この心の状態を失ってはいけません。

それは閉じた心ではなく、実は空の心であり、いつでも受け入れる準備のできている心という意味なのです。心が空であれば、いつでも何に対しても受け入れる準備ができています。

そういう心は、何ごとに対しても開かれています。初心者の心には多くの可能性がありますが、熟練者の心には可能性がほとんどありません。

あまりにもあれこれ分別しすぎると、自分を限定することになります。要求が多すぎたり、欲張りすぎたりすると、心が豊かではなくなり、自らに満ち足りることもできなくなってしまうのです。それ自体で満ち足りている最初の心を失えば、すべての戒律を失うことになります。

心が要求がましくなり、何かを欲しがるようになると、最後には、噓をつかない、盗まない、殺さない、不道徳な行いをしないといった、自分自身の戒律を破ることになるのです。最初の心をずっと保ち続けるなら、そうした戒律は自ずと守られるでしょう。

 

初心者にこそ可能性が拓かれる

初心者の心には、「私は何かを達成した」という考えはありません。すべての自己中心的な思考は、私たちの広大な心を限定してしまいます。

何かを達成しようという考えを持たず、自分という考えもないとき、私たちは真の初心者でいられます。そのとき、私たちは本当に何かを学ぶことができるのです。

また、初心者の心は、思いやりの心です。私たちの心が思いやりに満ちているとき、それは無限なものになります。私たちの宗派の開祖である道元禅師は、この無限な最初の心を取りもどすことがいかに大切であるかを常に力説しました。

そうすれば、私たちは、すべての存在に思いやりの心を持ちながら、自分自身に対して変わらず誠実であり、本当に修行をすることができるのです。

ですから、最も難しいのは、常に初心者の心を保ち続けることなのです。禅についての深い理解を持つ必要はありません。たとえ禅に関する文献をたくさん読むとしても、一つ一つの文章を新鮮な心で読まなければなりません。

「私は禅とは何かを知っている」とか「俺は悟りを達成した」などと言ってはいけません。いつも初心者でいること、これは諸芸のまぎれもない秘訣でもあるのです。この点については、十分に注意しておいてください。

坐禅の修行を始めれば、初心者の心がどれほど大切であるかがよくわかるようになります。それが禅の修行の秘訣です。

 

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