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無印良品が人気商品・福缶に込める「ものづくり継承」への思い

長田英知(良品計画執行役員)

2022年10月26日 公開 2022年12月01日 更新

無印良品が人気商品・福缶に込める「ものづくり継承」への思い

衣服や生活雑貨、食品など様々な商品を取り揃え、高い人気と根強いファンを抱える無印良品。本記事では、良品計画の役員である長田英知氏が、店舗を訪れているだけではなかなかわからない「あの人気商品の裏側」について紹介する。

 

東日本大震災をきっかけに始まった「福缶」

2011年、東日本大震災をきっかけに始まった人気商品があります。今回ご紹介する、無印良品の人気商品「福缶」です。

福缶は無印良品が新年限定で販売しているもので、昔から日本で親しまれている手作りの縁起物を複数種類からランダムに1点選び、ギフトカードとともに、西暦元号の価格(2022年は税込2,022円)で販売しているものです。

福缶の企画を始めるきっかけとなったのは2011年の東日本大震災です。震災が起きた当時、良品計画では復興支援のための様々な取組を行っていましたが、その中で東北のモノづくりを支援できないかという声が上がりました。

討議を重ねた結果、土着性が高くて縁起の良い由来のものが多い郷土玩具を缶に入れ、販売することで、家庭や店舗に賑わいを出せないかと考えたことが福缶の企画のはじまりです。

こうした検討を経て、震災の翌年の2012年、青森県、岩手県、宮城県、福島県の東北4県の手づくりの郷土玩具をいずれか1点とオリジナルハンカチ、さらには2,012円分のギフトカードを缶に詰めた「福缶」が、新年の初営業日に発売されました。

ちなみに第1回の縁起物として選ばれたものは以下の14点となります。

・青森県:鳩笛、津軽系こけし、八幡馬
・岩手県:金ベコ、六原張子
・宮城県:鳴子こけし、仙台張子、堤人形、松川だるま
・福島県:起き上がり小法師、赤ベコ、三春駒、三春張子、ねむりえじこ

 

伝統工芸作家の開拓に苦心

福缶の販売はとても好評で、無印良品では翌年以降も福缶の企画・販売を継続していきます。なお最初の3年間は東北エリアからのみ郷土玩具を選定していたのですが、2015年には関東に範囲を広げ、2017年からは全国の郷土玩具から選定を行うようになりました。

ちなみに福缶の開発は発売前年の年明けから始まる1年がかりのプロジェクトとなります。初売りで福缶を売ったら、企画メンバーはすぐに来年の福缶の企画に取り掛かります。

年の前半にはお願いする作家と制作頂く縁起物を決め、春頃から制作を開始していただき、秋頃に作品を納品頂いた後、缶に詰めて年明けに販売するという流れとなります。

福缶を開始した当初、一番苦労したのは新しい作家の開拓でした。当時、郷土玩具に対する世の中の関心は現在ほど高いものではありませんでした。その結果、作家や工芸品に関する情報も乏しく、当時のメンバーは民俗資料や文献を調べて作家を探し出し、飛び込みで連絡して交渉するということもあったそうです。

また作家を探し出して、やっとお会いすることができても、東京の会社というだけで警戒心を持たれることも多く、取引をして頂くまで時間がかかるケースも多かったといいます。

しかし年数を重ねる中で、だんだんとネットワークを広げることができ、現在ではその中から毎年約50組の作家を選んで、制作をお願いするようになりました。

基本的には作家の方が作りたいものをお願いしているのですが、福缶は新年の縁起物ということもあって、干支にまつわる玩具が多く取り揃えられているのが特徴です。

例えば、会津の山奥で土人形を数十年にわたって作り続けている工房千想さんには、2014年から毎年参加を頂き、干支にちなんだ動物をモチーフとした、来らんしょ人形を作って頂いています。ちなみに2022年の福缶は全50種類のうち、約30種類が干支の寅にちなんだものとなっています。

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福缶の10年を俯瞰する展覧会を開催

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