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「自制心と思いやり」のない子は将来…? “発達格差”が生まれる本当の理由



2021年06月30日 公開

森口佑介(発達心理学者・京都大学大学院文学研究科准教授)

森口佑介

目標に向かって自分をコントロールする力(実行機能)、そして他者を思いやる力(向社会的行動)――この2つの大切な能力は、子どもの将来に大きな影響を与えることが近年の研究で明らかになってきた。懸念される、2つの能力の発達格差とは?

※本稿は、森口佑介 著『子どもの発達格差』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

将来に影響与える実行機能 

いくつかの能力の個人差には、子どもの将来に重要な影響を与えるものがあります。

早速、そのような例についてみていきましょう。それは、ニュージーランドのダニーデンという地域で行われた研究です。この研究は、ある年に生まれた1000人程度の赤ちゃんを対象に、その赤ちゃんの発達を生涯にわたって追跡するプロジェクトです。

実行機能とは目標に向かって自分をコントロールする力のことを指します。ここでは自制心のようなものだと思ってください。ダイエットのためにケーキを食べたいという衝動や欲求を抑えられるか、目標に向かってどれだけ集中して課題に取り組めるかなどを、親や教師による回答や子ども自身の回答から多面的に調べています。

実行機能が高い人は、目の前の障害や誘惑に惑わされず、目標を達成することが可能です。「未来に向かう」ことができる人と言えるでしょう。一方、実行機能が低い人は目の前のことを優先してしまいます。「今を生きる」人ということになります。

ダニーデンの研究の研究者らが当初からこの実行機能を重視していたかと言うと、実はそうではないようです。面白いこぼれ話があります。このような長期的な研究では、子どものどういう能力を調べるか、非常に悩ましいところです。ここを誤ると、後で結果が出なかったときに、「この能力ではなくて別の能力を調べておけばよかった!」となりかねません。

研究者らは、「非認知能力(non-cognitive skills)」という言葉を生んだノーベル賞経済学者のジェームズ・ヘックマン博士から助言を受けました。そこでは、ヘックマン博士は実行機能(自制心)の効果を調べるように主張したのです。

ところが、ダニーデンの研究の研究者らは実行機能の重要性に懐疑的で、丁重に断りを入れました。知能指数(IQ)や社会階層(裕福な家庭か貧しい家庭か)のほうが大事だと思ったようですが、ヘックマン博士の強い主張に押し切られて、実行機能の効果を調べました。

結果としては、ヘックマン博士の言うとおりになりました。子どもの頃に実行機能が高い子どもは、32歳になったときに、様々な側面で優れた結果を出しました。ヘックマン博士に脱帽ですね。すごい人というのは本当にすごいものです。

結果を簡単にみてみましょう。まず、健康面です。実行機能が高い子どもは、大人になったときに肥満や高血圧などになりにくかったようです。自制心が強いと、目の前のおやつをがまんしたり、ラーメンをがまんしたりすることができます。大人になっても酒の飲みすぎに気をつけることができるでしょう。

次に、経済面です。子どものときに実行機能が高かった子どもは、年収が高く、貯蓄の額も大きかったようです。また、この研究が行われたニュージーランドには職業ごとの社会的地位のランキングのようなものがあり、実行機能が高い子どもは、大人になって医師や弁護士などの社会的地位が高い職につきやすかったようです。

実行機能が高いと、友達の誘いやゲームなどの誘惑に惑わされずに、勉強や仕事に集中することができ、難しい試験に合格したり、プロジェクトを成功させたりできるのかもしれません。

最後に、実行機能が高い子どもは、タバコや薬物に依存することはなく、犯罪を起こす確率が低いということも明らかになりました。

この研究では、子どもの知能指数と社会階層を統計的に処理しています。知能指数は学力と直結しますし、学力格差や教育格差の議論にあるように、社会階層は子どもの最終的な学歴や経済状態に関連します。

実行機能が大事なのではなく、子どもの知能指数や社会階層のほうが強い影響力がある可能性は排除できません。

しかし、この研究では、これらの影響を排除しても、実行機能は子どもの将来的な健康状態や経済状態などと強い関連を示しています。

もちろん、実行機能と子どもの将来の関係は相関的なものである点には留意する必要がありますが、学力格差や教育格差の中で出てくるような、知能指数や社会階層以外にも、子どもの将来に関連する大事な要因が発見されたということになります。

 

他者を思いやる向社会的行動

実行機能以外にも、子どもの将来に大きな影響を与える能力があります。それは「向社会的行動」です。向社会的行動は、日常的な言葉で言うところの思いやりです。

友人・知人に親切な行為をしてあげたり、自分の所有物を分け与えたりすることが含まれます。学術的には、他者に利益をもたらす意図に基づく自発的行動とされます。

ここで大事なのが、自発的に、という部分です。お願いされてからやるのではなく、相手の困った様子をみて自発的になされるのが向社会的行動です。

思いやりは、子育てでも非常に重視されます。親を対象に子どもにどのように育ってほしいかを尋ねるアンケートで、しばしば「思いやりを持つ子」が第1位になります。

たとえば、友達が弁当を持ってくるのを忘れていたとします。そのときに、気の毒に思って自分の弁当のおかずを一部あげることは、立派な向社会的行動です。

ここで大事なのは、一部の向社会的行動は、自分にとって不利益になることです。先ほどの例だと、自分のおかずをあげることは、友達の利益にはなりますが、自分にとっては不利益になります。

ですので、向社会的行動ができる人は、自分よりも他者を優先できる人だということになります。ただ、他者を優先することは、将来的に自分に利益をもたらす可能性があります。

たとえば、自分が弁当を忘れたときに、今度は友達がおかずをくれるかもしれません。そういう意味で、向社会的行動は、実行機能と同様に、「未来に向かう」行動です。

 一方、向社会的行動ができない人は、今の自分を優先させる人です。「今を生きる」人と言えるでしょう。

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