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PM2.5――細菌やウイルスと違う新たな脅威

畠山史郎(日本エアロゾル学会会長)

2014年03月03日 公開 2014年10月21日 更新

PM2.5が飛来しやすい季節と気象

夏は余り汚染物質は飛んでこない

 2013年の冬~春にかけて大きな社会問題となったPM2.5ですが、夏にはあまり騒がれませんでした。そして寒くなり始めた10月下旬から再びマスコミでも取り上げられるようになりました。季節による違いや、気象条件による違いがあるのでしょうか?

 夏場は地面が強く熱せられるため、地面付近の空気は軽くなって上昇します。このため陸上では細流が起こり、地面付近から発生した大気汚染物質は上空まで運ばれ広く拡散します。そのため大気汚染物質は高濃度になりにくいのです。

 一方、海の水は温められにくいので、大陸よりも温度が低くなります。このため、日本周辺で言えば、アジア大陸には低気圧、太平洋には高気圧が生まれます。夏場にはこのような気圧配置が安定し(南高北低)、太平洋から大陸への南東からの季節風が吹きます。このため、中国で放出される大気汚染物質はあまり日本には飛んできません。

大気汚染物質が高濃度で日本に飛来するとき

 冬になると、大陸の地面は冷やされます。そうすると強い対流は起きにくくなり、地面付近から発生した大気汚染物質は拡散しにくくなります。また、海の水は冷えにくいので、海のほうが大陸よりも温度が高くなります。このため、アジア大陸に高気圧、日本の東部の太平洋に低気圧が生まれます。冬にはこのような気圧配置が安定し(西高東低)、大陸から太平洋に向かって北西の季節風が吹きます。

 このような気象条件の時には大陸から汚染物質が輸送されてくるのではないかとはだれでも考えやすいのではないでしょうか?

 確かに山形大学の柳澤文孝教授は、蔵王の樹氷に硫酸塩などが多く含まれていることを報告しています。樹氷は山の樹木に冬の季節風が吹き付けるとき、その中に含まれている過冷却水滴(0℃以下に冷やされているが、凍っていない水滴)がその表面で瞬間的に凍ることによってできるもので、水滴のなかに溶けていたり浮遊していたりしたものを一緒に樹氷の中に閉じこめます。冬の季節風によって大陸からの汚染物質が輸送されてくることは間違いありません。

 この季節風が日本海上空を通過する間に、暖かい日本海から多量の水蒸気を受けとり、日本の日本海側に大量の雪を降らせることが良くあります。このような雪には大陸からの大気汚染物質が多く含まれていて、酸性雪となり、樹木の衰退に関係している可能性があることは前に述べました。PM2.5の粒子などもこのように雪に取り込まれて日本海側に降ってしまうことが考えられます。

 また雪が降らない場合でも、冬型の季節風によって輸送される場合には広い領域に拡散しますので、冬型の気圧配置が安定するときは、日本においてはPM2.5などもひどい高濃度にはならないものと考えられます。

 大陸で発生した大気汚染物質が高濃度で日本にやってくるのは、このような安定した気圧配置の時よりも、気象の変化が起こって、低気圧や移動性の高気圧が日本の南岸を通過するような条件の時に起こりやすいのです。

 10月~11月の秋と2月~3月の春はそのような条件になりやすい時期です。

 


<書籍紹介>

越境する大気汚染  のPM2.5ショック

畠山史郎著

隣国・中国で深刻化する大気汚染。その指標「PM2.5」の異常な数値が日本を脅かす。PM2.5の危険性を正確に知るための本。

<著者紹介>

畠山史郎(はたけやま・しろう)

東京農工大学大学院農学研究院教授、日本エアロゾル学会会長

1951年東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科化学専門課程博士課程修了。理学博士。国立公害研究所(現・国立環境研究所)大気環境部主任研究員、国立環境研究所大気反応研究室長、国立環境研究所アジア広域大気研究室長などを経て、現在、東京農工大学大学院農学研究院教授。日本エアロゾル学会会長。大気化学が専門で、黄砂・酸性雨・大気汚染などを観測・分析。中国の研究者と協力して、中国国内の大気汚染物質の航空機観測を世界で初めて実施。2007年バーゲン・シュミット賞受賞(「Atmospheric Environment」誌)、2011年度大気環境学会学術賞受賞、2012年度環境賞優良賞受賞(主催・日立環境財団、後援・環境省)。著書に『酸性雨 誰が森林を痛めているか』(日本評論社)などがある。

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