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カリスマ経営者がやっている「全体思考法」とは

山本真司(経営コンサルタント)

2015年07月07日 公開 2022年11月14日 更新

 

全体思考法を鍛える

 どうすれば全体思考法の力を磨くことができるか? 

 経営コンサルタントの出発点において、「考える」ための私の基本技能は、当然のごとく論理的思考法であった。しかし、その限界にすぐぶつかった。私の考える提言が現実的ではなく、創造的でもなく、クライアントの共感を得られないケースが頻発したのである。私の30代の10年間は、全体思考法のコツをつかもうと試行錯誤を重ねた日々であった。

 そして、1つのキーワードにたどり着いた。それは、冒頭でも申し上げたが、島田さん(註:著者のボストン・コンサルティング・グループ時代の元上司)から教わった「イメージ、イマジネーション」という言葉である。そう「言葉」に対しての「実体」、「イメージ」である。

 それは課題となっている職場や販売現場、生産現場、あるいは自分の将来の仕事人生、生活についてのイメージを頭に描くことでスタートする。イメージを描くためには、現場に足繁く通わなければならない。そして部分だけでなく仕事の全体像、そこで働く人々をはじめとする職場や売り場の空気、雰囲気、息づかい、匂いまでをもイメージとしてつかもうとした。イメージの元ネタを仕込むためだ。そのためには、現場の観察が不可欠だ。とにかく現場に足を運び、現場観察の鬼になる。

 そして、そのイメージを頭の中で動かしてみたりして、とてつもなく大胆な解決策をイメージしてみる。また、自分特有の状況に重ね合わせて参考にできるいろいろなイメージを増やすために、世界各地を回った。いろいろな業種のいろいろな企業の現場の全体映像を、意識的に頭にストックするためだ。イメージを動かしたり、大胆なイメージに置き換えてみたり、他のイメージと重ね合わせてみる作業を繰り返すうちに、「これだ」という直観を得ることができるようになった。イメージで捉え、イメージを脳内操作し、イメージを頭に貯める

 全体思考法は定型化できないが、訓練できる。そのためには、(1)現場を部分でなく全体で、かつイメージで捉える努力をする、(2)イメージの操作作業に慣れる、沈思黙考して頭の中でイメージを動かすことを当たり前にできるようにする、(3)比較対照し、刺激を得るためにイメージのアーカイブ(貯蔵庫)を充実させる必要がある。この作業を意識的に加速化させることによって、全体思考法の技術は身につく。

 

動き回ることの効用

山本真司氏

 全体思考法を発見してからは、私は思考スタイルを大きく変えた。クライアントから課題を投げかけられると、必ず頭の中でよく似たシチュエーションのイメージがなかったかどうかを考えるようになった。それは会社であったり、世の中の話であったり、個人的体験であったりするが、種類は問わない。頭の中のイメージ・アーカイブを自動検索している感覚である。おまけに、検索キーは無限に設定できる。同じイメージでも、切り口次第で違って見えてくる。

 ある時期から、自分の作業工程を意識化することに努めた。そして全体思考法の能力を鍛えるために、イメージ・アーカイブを増やそうと決めた。素材はいたるところに転がっていた。とにかく好奇心一杯に動き回る。目に入るイメージがマンネリ化してきたら、見たこともないものを見るために、国内、海外を問わず出張を入れまくる。現地で少しでも時間があれば、とにかく何でも見に行く。好奇心の塊になることにした。

 人間が3人集まれば社会ができ、マネジメントが必要となる。そこで課題が発生するときは、その解決策は論理でも考える。論理作業は定型化されているので脳にストレスなくできるものだが、あえて頭に追加ストレスをかけて、3人の表情や身体の動かし方、空気、雰囲気なども観察するようにした。そして写真を撮るように、そういう情景を切り取っていく。そんな作業で頭の中に現実社会のイメージ・アーカイブを蓄え、拡張していくようにしている。

 

イメージ・アーカイブの作り方

 こうした作業習慣が身につくにつれて、昔に比べると机の前でPC作業をしたり、勉強したりする時間は減っていった。大衆化された知は、ネットですぐに調べられる。その代わり、イメージの蓄積に意識的に時間を使うようになったのだ。人に会ったり、何も用件がなくても現場に足を運んだりという一見無駄な作業も、イメージの蓄積のために実行した。

 そして次の作業として、収集したイメージに仮のラベルを貼るために、これらのイメージ体験からなんらかの示唆を導き出すことにした。示唆の導出は、次に応用するための一般化を目的に実行するものであり、この示唆にラベルをつけて頭の中にイメージを格納する。

 しかし、実際にイメージを頭の中のアーカイブから引き出して使うときには、必ずしも最初に貼ったラベルにこだわることなく、切り口を無限に考えるようにした。

 こうしたイメージ・アーカイブが充実するにつれて、言葉を介することなく、イメージ自体が勝手に爆発的スピードで合従連衡して、答えを出してくれるようになった。創造を感じる瞬間である。

 まだ年若いころの経験不足の私が、なぜ、コンサルタントとして、経営者たちにアドバイスできたのだろうか? たぶんこのイメージ・アーカイブを蓄積して拡張させるという作業に力を入れていたからである。

 意識して実践すれば、起きている間はいくらでもイメージ・アーカイブを収集できる。意識すれば全てが頭に残り、そういう作業に習熟することでアーカイブが指数関数的に拡大することが、コンサルタントとしての私の優位性になっていたのだと思う。

 こうした全体思考法の習熟の結果、仕事がずいぶん速くなった。ある時期から、非常に短い時間で、まさに針の先に全ての重量がかかるように、全体思考=イメージ操作に集中し、アウトプットを作れるようになった(端から見れば、思いつきにしか見えないだろうが)。

 

PC、スマホを捨てよ、町に出よう

 現場に行こう。目を皿のようにして観察しよう。そして、「おもしろいな」「変だな」「あれっ」と思った情景を頭にアーカイブしておこう。それが、全体思考をつかさどる材料になってくれるだろう。忙しい、時間がないといって、机にしがみついている「後追い適応症」のミドルは、そのままでは、永遠に進化しないのだ。『書を捨てよ、町へ出よう』(角川文庫)というのは寺山修司の書であるが、「PC、スマホを捨てよ、町に出よう」というのが「考える」ための第一歩だ。

 

著者紹介

山本真司(やまもと・しんじ)

経営コンサルタント、〔株〕山本真司事務所代表取締役

1958 年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)勤務。シカゴ大学経営大学院(ブースビジネススクール)修士。名誉MBA (MBA with honors) 取得、ベータ・ガンマ・シグマ(全米成績優秀者協会)会員。1990 年にボストン・コンサルティング・グループ東京事務所に転じる。以降、A.T. カーニーマネージング・ディレクター極東アジア共同代表、ベイン・アンド・カンパニー東京事務所代表パートナーなどを経て2009 年に独立。現在、株式会社山本真司事務所、パッション・アンド・エナジー・パートナーズ株式会社代表取締役、立命館大学経営大学院客員教授、慶應義塾大学健康マネジメント大学院非常勤講師などを務める。
著書に、『会社を変える戦略』(講談社)、『儲かる銀行をつくる』(東洋経済新報社)、『40 歳からの仕事術』(新潮社)、『35 歳からの「脱・頑張り」仕事術』(PHP研究所)、共著に『ビジネスで大事なことはマンチェスター・ユナイテッドが教えてくれる』(広瀬一郎氏との共著、近代セールス社)など多数。

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