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北京を狙うアメリカの新トライデントⅡD5型ミサイル

2017年08月31日 公開

日高義樹

2017年4月、フロリダで開かれたアメリカのトランプ大統領と中国の習近平主席との話し合いの結果、これまでの中途半端な米中関係は大きく変わり、軍事戦略上、中国がアメリカとアジアの民主勢力に対する敵対勢力であることが明確になりつつある。

アメリカのマスコミはトランプ大統領の新しい中国政策についてほとんど伝えていないが、このことはトランプ大統領の外交政策をまったく信用していないアメリカのマスコミの性格から、当然のことと思われる。しかしながら、トランプ大統領と習近平主席の首脳会談は、中国とアメリカが妥協できない敵対的な関係を基本的に持っていることを明確にした。

トランプ大統領は中国経済がアメリカの経済にとって役に立っているとは考えていない。トランプ大統領は大統領に当選した直後、こう述べたことがある。

「中国はアメリカ経済をレイプしている。アメリカは中国に利用されているにすぎない」

このトランプ大統領の発言は、「中国経済の拡大が世界経済の役に立っており、アメリカ経済が繁栄する助けになる」という、オバマ前大統領の発言と真っ向から対立するものである。

端的に述べれば、トランプ大統領はアメリカ第一主義である。「アメリカのことだけを考えている」と常に述べているが、中国との関係についてはアメリカのためにまったく役に立っていないと考えている。

あらゆる情報から総合して、アメリカのトランプ大統領が中国の習近平主席に対してとくに敵対感を持っているとか、嫌っているという話はまったくない。むしろ白紙であり、政治的に言えば完全にニュートラルと言うことができる。

しかしながらトランプとその周辺は中国経済の安売り、つまりダンピング政策が、アメリカの労働者の職を奪っているため、基本的にはアメリカにとって敵であると考えているのである。こうしたトランプの考え方に対し、習近平はこれまた基本的にきわめて反米的である。

習近平の発言や行動から判断すると、アメリカは習近平にとって敵である。習近平をはじめ中国の政府機関のアメリカに対する考え方の基本は、「アメリカはあらゆる国際的な謀略を使って中国の力の拡大を妨害している」というものである。

習近平は南シナ海や東シナ海を基本的に中国のものだと考えている。この広大な海域を取り戻すことが自らの歴史的な責任であると考えている。中国側の文書を分析すると、習近平は、中国が国際的に被ってきた損害と不名誉を挽回するために強大な海軍力をつくりあげ、アメリカに対抗しなければならないと考えている。こうした習近平の野望は、かつて大海軍力をつくりあげようとして失敗したソビエトのブレジネフ書記長の構想を思い起こさせる。

かつてソビエトのブレジネフと同様、中国の習近平は、海軍力を強化することが国際社会での立場を確立することであると考えている。中国が強力な国家として存立するためには、ともかく強力な海軍力をつくり、海軍国家にならなければならないと信じているのである。

習近平は中国の海軍力を増強し、大国としてアメリカや日本との関係を確立すべきだと考えている。そのためには、力によるアメリカとの対等な関係をつくりあげるのが先決だと思っている。習近平が考えているアメリカとの基本的な関係は三つある。

第一に、アメリカと対等の話し合いを行い、戦略的に中国の立場を受け入れさせること。そして第二は、相互の信頼を確立し紛争が起きるのを防ぐこと。第三は、利害が衝突する地域では平和的な妥協を探求し双方が納得する形で決着をつけること。習近平は、この三つをアメリカとの関係の基本と考えている。

習近平は2012年の共産党全国代表大会の席上、「中国の夢」と名づけた思想を発表し、「中国民族の偉大な復興」を唱えた。「中国の夢」はそれ以来、習近平をはじめ中国指導者の政治理念になっている。

習近平の夢は、かつてのシルクロードを再建することと、「海のシルクロード」をつくることである。東シナ海、南シナ海を起点にインド洋からペルシャ湾、あるいは地中海からさらには大西洋、アフリカに至る海上ルートを「海のシルクロード」と名づけ、中国の力と権威によって、アジアからアフリカに至る広大な勢力圏を確立しようと考えている。

習近平は、海のシルクロード構想が東南アジアの国々や中東、アフリカの国々の利害と衝突するとは考えていない。そうした国々との協力体制をアメリカが確立していることについては、一方的にアメリカの陰謀であると決めつけている。

習近平は、中国の夢を実現させるための財政的基盤として、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の構想を打ち立て、中国からヨーロッパに至るシルクロードを再建しようとしているが、その野望を遂げるにはアメリカの世界体制に断固として立ち向かわなければならないと考えている。

習近平は、南シナ海に建設した不法な軍事基地に対する国際裁判所の決定を無視し、尖閣列島や台湾に対して侵略的な行動をとっているが、こうした姿勢は習近平の考え方をはっきりと表している。

習近平の野望と不法行為は、ロシアのプーチンのソビエト帝国復活の野望と行動に共通するものである。中国とロシアは、アメリカがつくりあげた世界体制と、日本やアジアの国々と協力してつくりあげている民主主義的な資本主義体制と対決しようとしている。

トランプ大統領が習近平主席との首脳会談のなかで、南シナ海と台湾をめぐる中国の不法な立場をどこまで追及したかは明らかではない。アメリカのマスコミも、この点について曖昧な報道しかしていない。これは歴史的に民主党寄りのリベラルなマスコミが、毛沢東による共産主義革命を人民による革命だと思い込んでいることに原因がある。

オバマ前大統領の中国甘やかし政策には、こうしたアメリカのマスコミと世論の中国に対する融和的な姿勢が反映している。このため、2009年から8年間、思想的には根本的に対立するにもかかわらず、中国戦略をないがしろにしてきた。オバマ大統領のもとでアメリカは、中国が勝手につくりあげたAAAD戦略を暗に認め、中国の侵略行動を阻止しようとしなかった。

トランプ政権は中国に対する明確な戦略を明らかにしてはいないが、原子力潜水艦隊の三度目の改革によって、中国に対する抑止政策を強化しようとしている。新しいバージニアクラスの潜水艦を開発し、クルージングミサイルによる強力な通常破壊力によって中国海軍のつくりあげたAAAD戦略を破壊しようとしているのである。

トランプ政権は同時に、新しい核戦力によって中国に対する抑止体制を劇的に強化しようとしている。そのために、オハイオ型のミサイル原子力潜水艦に替わる新型のミサイル潜水艦と、それに搭載する新しいトライデントミサイルⅡD5の開発に取りかかっている。アメリカ海軍は、2026年までには合わせて39隻の新しいミサイル原子力潜水艦を一線配備し、2029年には第一線パトロールを行って北京を狙うことになっている。

かつて冷戦時代、アメリカのミサイル原子力潜水艦が常時クレムリンを狙い、ソビエトの指導者の侵略的な野望を排除していたように、アメリカは今後、北京に狙いを定め、中国の指導者を敵とする体制を常時とることになる。

ソビエトと対立した冷戦の時代と違ってアメリカの敵は中国だけでなく、ロシア、イラン、イスラム過激派勢力、それに北朝鮮と、一挙に増えているため、冷戦当時のような単純な抑止力体制はとりづらくなっている。しかしながら現在、明確にアメリカの世界体制に対抗し、新しい国際秩序をつくろうとしているのは中国である。

中国の侵略的な姿勢が習近平のあとも続くのかどうかはわからない。しかしながら、モスクワを最大の敵にしていたアメリカの核戦略は、徐々に中国を敵とするものに移し替えられていくものと思われる。

アメリカはミサイル原子力潜水艦を新しいタイプのものに替えるだけでなく、新しい戦略爆撃機B21の開発と一線配備、それに古くなったミニットマンミサイルを改良し新しい型のミサイルを製造しようとしている。

中国を当面の最大の敵とするアメリカの新しい戦略をつくりあげることができるかどうかに、トランプ大統領の政治的命運がかかっている。トランプ大統領がロシアのプーチンと接触を強めていることは、冷戦の敵であったロシアの恐怖が消えつつあることを表している。

中国はいまやロシアに代わって「中国の夢」を掲げ、アメリカの体制に対抗する世界秩序をつくろうとしている。そうした中国に対して、いかなる形で、基本的な抑止戦略体制を構築するか。この命題を達成することが、アメリカの政治的な混乱を正すことにもつながっている。

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