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危機のときこそ生きる「伝える力」

池上彰(ジャーナリスト)

2011年12月21日 公開 2022年12月27日 更新

池上彰

自分がわからないことは相手もわからない

震災直後の番組では、各テレビ局とも多くの専門家が出演し、津波や原発、放射線の影響などについて解説していましたね。原子力となりますと、東京大学や東京工業大学などの教授や准教授の出演が目立ちました。

専門家は専門用語を交えて、どんどん説明していきます。それに対して、アナウンサーやキャスターは「なるほど」と相槌(あいづち)を打っていますが、テレビを見ていると、「ああ、わかっていないまま頷(うなず)いているな」とわかってしまうことが、よくありました。

大人ですし、ましてテレビカメラの前です。相手が言ったことの意味がわからなくても、プライドがあるため、「それはどういうことですか」とか「その言葉の意味は何ですか」とか聞き返すことは、なかなかできないものです。その心情は十分に理解できます。

とはいえ、ここは、それらの疑問を"勇気を持って"問いかけなければいけない場面です。「制御棒とは何ですか」とか「プルトニウムはどうして怖いのですか」とか「ベクレルとシーベルトの違いは何ですか」とか、"素朴な"疑問を投げかけることで、本人が理解できるだけでなく、視聴者もその理解を共有することができるようになります。

東日本大震災直後の緊急特番では、そもそも原子力発電の仕組みとはどういうものか、放射線と放射性物質の違いなど、基礎の基礎から取り上げて解説しました。

すると、視聴者から、「安心しました」「ホッとしました」といった反響が数多く寄せられました。実は番組では「心配することはありません」とも「安全です。皆さん、安心してください」とも言っていないのに、そうした反響がたくさんあったのです。

これはつまり「どういうことかわかった」から「安心した」「ホッとした」ということなのだと思います。

原発事故に限らず、どういう状況かわからない、何を言われているのかわからない、といった状態は人をとても不安にさせます。たとえ置かれた立場が非常によくない状況であっても、わかることで、初めて対処のしようも考えられます。

「何が危険なのか」をまず知ることなのです。そのためには、わかろうと努めること、伝える側の人はわかるように伝えようと努めること。そのことがとても大事なのです。

 

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相手に「話の地図」を渡すことが大切

著者紹介

池上彰(いけがみあきら)

ジャーナリスト

1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、73年NHK入局。報道記者として、松江放送局、呉通信部を経て東京の報道局社会部へ。警視庁、気象庁、文部省、宮内庁などを担当。94年より11年間NHK『週刊こどもニュース』でお父さん役を務める。05年3月にNHKを退社し、現在はフリージャーナリストとして多方面で活躍。著書に『そうだったのか!現代史』(集英社)、『相手に「伝わる」話し方』(講談社現代新書)、『ニッポン、ほんとに格差社会?』(小学館)など多数。

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