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危機のときこそ生きる「伝える力」

池上彰(ジャーナリスト)

2011年12月21日 公開 2022年12月27日 更新

池上彰

相手に「話の地図」を渡すことが大切

わかりやすい説明をするには、相手にまず「話の地図」を渡す(あるいは、示す)ことが大切だと私は思っています。

「話の地図」とは話の全体像で、最初に伝えるべき内容でもあります。

たとえば、あなたが友人と遊園地に行ったとしましょう。サァ、今日はどのアトラクションで遊ぼうか、どのショーを見ようか…。期待に胸を膨らませて、あなたはあれこれ考えを巡らすでしょう。

でもそのとき、その遊園地の地図もパンフレットも持っていなかったら、どこに行ったらよいのか、困ってしまうのではないでしょうか。歩いているうちに、どこかおもしろそうなところに出くわすだろう。

そう考えて、ブラリと歩き出してみるのも楽しそうですが、不安に思う人もいるでしょう。「地図があると便利なのにな、効率がいいのにな」と。

そう考えてみると、地図はやはり便利なもの。ないよりはあったほうが、何かと助かります。

相手に何かを話す場合にも、「地図」はあったほうが相手は安心するし、相手はこちらの話を理解しやすいものです。

東日本大震災を取り上げた『学べるニュース』でも、視聴者に「地図」を渡すことを心がけました。たとえば、東京電力と官房長官と原子力安全・保安院の関係について――。

震災が起きた直後は東京電力、官房長官、そして原子力安全・保安院の記者会見が頻繁に開かれていましたね。テレビでは、この三者の会見を中継で次々につないでいくこともありました。

すると、この三者の言っていることが必ずしも一致しない。同じ事柄に対して、異なった見解を示すこともある。これでは、視聴者は混乱してしまいます。それにそもそも、この三者はどういう関係なんだろう?という素朴な疑問を持った人も多かったでしょう。

そこで『学べるニュース』ではまず、東京電力、官房長官、原子力安全・保安院の立場や役割、関係を整理して紹介することにしました。だいたい次のようなことでした。

◇東京電力は民間の企業で、原子力発電所を運転している立場から原発事故について説明していること

◇官房長官の正式名称は内閣官房長官で、官房長官は内閣のスポークスマン、つまり政府としての見解を表明し、政府として国民に呼びかけていること

◇原子力安全・保安院は経済産業省の組織の一つで、政府の役所として、また、エネルギー事業の監督官庁として、原発事故の現状や対策について国民に説明していること

こうしたことをまず説明しました。これが私の言う「話の地図を相手に渡す(示す)」ことなのです。

東京電力、官房長官、原子力安全・保安院の立場や役割、関係がすっきりすると、視聴者は毎日のようにテレビ画面に出てくるこれらの人たちの言っていることがより深く理解できるようになるだろう。

そう思って、『学べるニュース』では、これら三者の解説を震災後の早い時期に行なったのです。視聴者にまず「地図を渡す(示す)」と、今、起きていることが理解しやすくなるだろうと考えたからでした。

「地図を渡す(示す)」方法は、仕事の場などでも、もちろん使えます。たとえば、職場で業務の改善を提案するとしましょう。その場合、まず現状と問題点を話し、提案する改善法によって、その中のどの部分がよくなるかを示すと、受け手は全体像や問題点、改善点をスムーズに把握しやすいものです。

全体像、個別の事柄、問題点、改善点などのつながりをわかりやすくするためにも、相手に「地図を渡す(示す)」ことを意識してみるとよいでしょう。

 

著者紹介

池上彰(いけがみあきら)

ジャーナリスト

1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、73年NHK入局。報道記者として、松江放送局、呉通信部を経て東京の報道局社会部へ。警視庁、気象庁、文部省、宮内庁などを担当。94年より11年間NHK『週刊こどもニュース』でお父さん役を務める。05年3月にNHKを退社し、現在はフリージャーナリストとして多方面で活躍。著書に『そうだったのか!現代史』(集英社)、『相手に「伝わる」話し方』(講談社現代新書)、『ニッポン、ほんとに格差社会?』(小学館)など多数。

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