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簡単な数学でわかる「消費税増税は要らない!」

高橋洋一(嘉悦大学教授)

2012年01月18日 公開 2021年07月15日 更新

 

消費税 増税は要らない

S君、食費アップを憂える

S君 (食堂で630円のラーメンを注文しながら) ああ、この醤油ラーメンが630円で食べられるのも、いつまでなんだろう。

教授 S君、なんで、そんなに暗い顔をしているの?

S君 いやあ、つい先日(2011年11月3日)、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席していた野田佳彦首相が「消費税率を2010年代半ばまでに10%に引き上げる」って国際社会を相手に発表しちゃいましたよね。

まったく国内で議論を尽くさないうちに。そうなったら、このラーメンもじきに、あと30円足さないと食べられなくなるのかな、と悲しくなっちゃって。

教授 さすがに、そのあたりの計算はすぐにできたね(笑)。30円はでかいからね。同情するよ。たしかに、与謝野馨前内閣府特命担当大臣(社会保障・税一体改革担当大臣) がとりまとめてきた「社会保障と税の一体改革」のための消費税増税案が、ついに現実化しようとしているね。

それで思い出すのが、菅政権から野田政権に交代する9月初めのことだったか、与謝野さんが内閣府に「上げ潮派」への反論をまとめあげるよう指示したっていう話だね。

つまり、消費税を増税しなければ社会保障が破綻するっていう、いつもながらの主張を、もうちょっと学問的にしっかりしたものとして提示するって宣戦布告したんだ。これ「面白いな。できるんだろうか」と思っていたんだけれど、どうなっているのかな。

S君 「上げ潮派」っていうのは、ひと言でいうなら、経済成長なくして財政再建はありえない、とする人たちのことですよね。

教授 そう。私も、それに入るね。

S君 対して、与謝野さんは「財政再建重視派」とか呼ばれることがありますが、要するに、増税による歳入改善をまずやれ、と主張する。

どうも、われわれ一般ピープルは、「足りないんだから増税するしかないだろ」といわれると、すぐに「しょうがない」ってなっちゃうんですね。でも、お気に入りのラーメンが30円高くなるのは痛い。

事実を見れば、増税不要は一目瞭然!

教授 こと消費税に限れば、「上げ潮派」のロジックって単純なんだよ。「名目成長すると消費税の増税がいらなくなる(または少なくなる)」。ただ、それだけ。で、これは、主義主張とかではなく、単なる事実なの。そのことを示すグラフがあるんだけどね。

S君 あるんですか!

教授 あるよ~。ほら、これ。
 

この話も、データだけあると、もう完全に「Q.E.D.」。証明終わりなんだよ。

これは、縦軸に比率(パーセンテージ)、横軸に年月をとって、「名目GDP成長率」っていうのと、「プライマリーバランス(基礎的財政収支)対名目GDP比」っていうのを、それぞれドットして比較したものなんだ。

普通のグラフで書くときには、両方の縦軸に異なる比率を書く。それぞれの比率の数字が、多少違っているからね。で、年月でとるんだけど、過去20年ぐらいとると ―― まあ、20年とっても30年とっても一緒なんだけどね ―― 名目GDP成長率が、昔はけっこう高くて、最近はもうゼロとかマイナスになっているのがわかるわけ。

あ、忘れていたけど「名目GDP」というのは、国民の給与などをすべて合算したものだよ。

S君 名目GDPはよく国民所得とかいいますね。この成長率が高ければ、まあ、景気がいいと。これくらいなら、わかります(笑)。では「プライマリーバランス対名目GDP比」っていうのは、何を表しているんですか?

教授 プライマリーバランスっていうのは、過去の債務にかかわる元利払い以外の支出と、公債発行などを除いた収入との差の収支のことをいうんだ。

まあ、民間企業でいう金融収支を除いた営業収支のことだね。で、これを、どうして名目GDPと比べるかというと、後でもう1回説明するけれど、財政の健全性を示す指標である「債務残高対名目GDP比」が「プライマリーバランス対名目GDP比」の動きに連動するからなの。

ちょっとはしょって説明すると、プライマリーバランスが黒字であれば、「債務残高対名目GDP比」は大きくならず、「財政は健全である」ってことになるんだ。あ、念のために付け加えておくと、「A(の)対B比」といった場合は、A÷Bということね。

S君 なるほど。片や景気のよさ、片や財政の健全性を示すグラフなんですね。

教授 そういうこと。

S君 で、2つの曲線を見てみると……、あ、ほとんど一緒の変化をしていますね!「名目GDP成長率」(=景気のよさ)が高ければ、「プライマリーバランス対名目GDP比」(=財政の健全さ)も高いし、前者が低ければ後者も低い。

教授 そう、そう。これで見るとね、ほとんど同じなの。だから、これは何をいっているかっていうと、名目GDP成長率を上げたら、プライマリーバランスも上がって財政が健全になるということ。それだけの話。以上、証明終わり。だから、与謝野さんがどんなに反論したって、データを見せたら終わりなんだよ(笑)。

S君 このグラフだけで全部示していると。単に蓄積されたデータだけですからね。

教授 そう、細工も何もしていない単なる事実の記述。そのまんま(笑)。こういうデータを持っているから、「名目GDP成長率を上げたら財政再建は終わる。だから、消費税増税は要らない」っていっているだけよ。

S君 これにもし論理的に反論できるんであれば、してもらいたいですよね。

教授 そうだね。

S君 反論するなら、何をもってくるのでしょう。

教授 考えられることの1つは、「名目GDP成長率を上げることができない」っていうやつだね。「できない」っていう言い方ね。これ、じつは「できない」んじゃなくて「やらない」だけなんだけどね(笑)。また後で話すけど、日銀が「デフレターゲット」しているんだから、やりようがないんだけどね。

S君 やれるのにやらない。そこがずるいですね。

教授 だから、「できない」っていうわけ。他の先進諸国はみんなインフレターゲットで成長率を維持しょうとしているのに、日本だけどうして「デフレターゲットなの、と。だから、財政再建の話なんて、消費税増税なんてしなくてできちゃうのに、「なぜ増税するの?」って思っちゃうよ。

逆に、これだけ景気が悪いなかで、増税なんていう余計なことをすれば、経済成長率がさらに悪くなるだけでしょ。そうしたら、どんどん「プライマリーバランス対名目GDP比」も悪化させて、財政を瀕死の状態に追いやるだけですよ、と。ファクトに忠実であるなら、そうとしかいえないね。

S君 政府は、余計な、無意味な、さらにいえば、国家財政にとってマイナスになるようなことをやろうとしているわけですね。何が「財政再建重視派」かと(笑)。

教授 本当に、あきれるほど、つまらない話だよな。

S君 論破はあっという間でございました。まだラーメンものびておりません(笑)。

 

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