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教習生がトイレ掃除 !? ―自動車教習所 Mランド“大繁盛”の秘密

小河二郎(Mランド益田校会長)

2012年03月14日 公開 2022年11月10日 更新

 

Mマジックを実現する『三種の神器』

Mランドには『三種の神器』 がある。第一の「剣(つるぎ)」にあたるのが、「トイレ掃除」だ。朝の教習開始前に、社員とゲストが10人、20人、黙々と便器を磨く。

終わったあとの顔は、人が変わったように輝いているから不思議だ。Mランドでは、トイレ掃除を経験した若者が、すでに3万5000人を超えている。

Mランドでトイレ掃除の取り組みを始めたのが、今は系列会社益田クッキングフーズで社長を務める青木重美(しげみ)氏である。ある研修に参加したとき、「何か職場貢献になることを」と言われ、同じ時期にイエローハットの創業者で「日本を美しくする会」相談役の鍵山秀三郎氏が指導する「掃除に学ぶ会」の益田市の会に参加していたので、掃除でもしてみようかな、と始めたのが平成8(1996)年。

「最初は一人で黙々と、そのうち“益田掃除に学ぶ会”に同僚を2人、3人と誘って、その中から校内トイレ掃除のレギュラーメンバーができました。そんな状態が3年以上続いたあと、平成12(2000)年の2月1日にMランドが導入した“Mマネー”の発行と同時に、ゲストの方もお誘いするようになりました」(青木氏)

現在は、毎朝7時50分から約1時間、小河会長が「重美塾」と名づけた、鍵山氏直伝のトイレ掃除が行われている。ちなみに朝の掃除には、「重美塾」のほかに「一美(かずみ)塾」(こちらも掃除に熱心な社員の名前をとっている)と呼ばれる校内清掃(掃き掃除や草むしり)も同時刻帯に行われている。偶然だが、「美しきを重ねる」「美しさ一筋」とも読めるのが面白い。

2番目の「鏡」にあたるのが、「ありがとうカード(サンキューレターを最近改称)」である。あとで詳しく述べるが、ゲストが教習所内でお世話になった人に感謝の気持ちを記し、指定のポストに投函する。多い月には投函数が6~7千枚に達する。

「1年間で5万枚です。この小さな積み重ねが、Mランドも日本もつくっていってくれているわけで、Mランドの血液だと思っています」(小河会長)

3番目の「勾玉(まがたま)」にあたるのが「茶の湯」だ。

Mランドには「無尽蔵」という茶室がある。茶室の名前は、「無尽蔵井泉(むじんぞうせいせん)」という言葉に由来している。井戸の水は汲めば汲むほど水が出てくるが、逆に汲まなくなると出てこなくなる。知恵も同じだ、という意味である。1週間に1度、表千家の師範の免状を持つ社員による薄茶席を設け、希望するゲストに抹茶を一服味わってもらっている。茶の湯のイベント以外はすべて有料(後述するMマネーが必要)だが、逆に茶の湯は参加するとMマネーがもらえるのである。

「茶道は日本を代表する文化の1つです。にもかかわらず、生まれてから1度も茶室に招かれたことはおろか、抹茶を飲んだことがない人も珍しくありません。そんな人にお茶の点(た)て方、飲み方、さらにもてなし方、もてなされ方を知ってほしいという気持ちからです」

「今お茶を飲んだからといって、今すぐ何かの役に立つわけではありません。でも、これから年をとっていくとき、お茶を飲んだことがあるという一片の経験がどれほど皆さんの人生に役立つか。5年先、10年先、場合によっては30年先かもしれませんが、必ず皆さんの人生にプラスになると思うから勧めるのです」

一見、茶道と運転は関係ないように感じるかもしれないが、こう語る小河会長の中では、茶道を通して運転にも通じる“思いやりの心”にふれてほしいという願いがこめられているのだ。

 

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