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ガリガリ君・赤城乳業の「あそぶ」仕事術

遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長)

2015年08月04日 公開 2016年07月20日 更新

 

「やっちゃいけないこと」をあえてやる。 「常識」を否定しよう

 

仕事とは差別化すること
よそと同じでは意味がない

 井上社長の思想の原点は「異端たれ」だ。

 異端は「邪道」ではない。異端は「先進」であり「先端」である。先を読み、未来を見すえて、誰もやらない新機軸に挑戦していく。それこそが「異端」の本質だ。

 コンビニルートの開拓、ユニークな販促(販売促進)、新工場での新次元の品質・術生管理、「見せる・観せる・魅せる工場」の展開、冷凍技術へのこだわりなど、赤城乳業の独自性が異端の発想から生まれているのは間違いない。大手の物真似、後追いを排除してこそ独自の道が開けるという好例だ。

 井上社長は赤城乳業の経営を「異端」と呼び、社員に「異端たれ」と呼びかける。

 確かに、商品戦略や販促戦略では「異端」を貫いている。

 だが、私には赤城乳業の経営はとても「まっとう」に思える。今の日本には、残念ながら、「異端」であろうとする会社が少なくなっている。経営とはそもそも差別化を実現することだ。競合他社と同じでは価値がない。「まっとう」とは他社との差別化を目指し、「異端」であり続けることだ。赤城乳業は、「まっとう」であり続けようとして、あえて「異端」の道を選んでいるのだ。

 

判断の基準は「それは誰も真似できないことか」

 赤城乳業の「異端」の発想は、経営や戦略面だけでなく、戦術面でも発揮されている。

 たとえば「ガリガリ君」に先駆けて1978年に発売を始めた「BLACK」のテレビCMがそうだ。

 「BLACK」は定番商品だが、さらなる飛躍を目指して、肩の力が抜けた「ゆる~い」イラストによるCMを企画し、これが当たった。赤城乳業ならではの“外し”が高い評価を受け、第50回ギャラクシー賞CM部門優秀賞を受賞している。

 その企画内容について、ニュー・スリリースにはこう書かれている。

 「新発売でもありませんので、控えめで、肩の力が抜けたテレビCMをと考えました」

 この脱力感は大手企業には真似ができない。大手なら企画段階で「ふざけるな!」「まじめにやれ」と一喝され、ボツになっている可能性が高い。

 しかし、赤城乳業ではこうした企画が平気で通る。逆に、常識的でインパクトのない企画は「うちらしくないこと怒鳴られ、却下される。

 「やっちゃいけないこと」をあえてやる。「あそび心」があるからこそ。できる選択である。「異端」は実に奥が深い。

 マーケティング部次長のCさんは、井上社長をこう評する。「うちの社長はやっちゃいけないこと、大好きなんです」。

 

「異端」とは、決して商品や販促だけのことではない。企業体質こそが「異端」でなければならない。それを実現できているからこそ、赤城乳業は、「やっちゃいけない」アイデアが次々と生まれ、実現されているのである。

 

著者紹介

遠藤 功(えんどう・いさお)

遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長)

ローランド・ベルガー日本法人会長。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。経営コンサルタントとして、戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得ている。ローランド・ベルガーワールドワイドのスーパーバイザリーボード(経営監査委員会)アジア初のメンバーに選出された。株式会社良品計画 社外取締役。ヤマハ発動機株式会社 社外監査役。損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式会社 社外取締役。日新製鋼株式会社 社外取締役。コープさっぽろ有識者理事。『現場力を鍛える』『見える化』(以上、東洋経済新報社)、『新幹線お掃除の天使たち』(あさ出版)など、ベストセラー著書多数。

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