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加藤隼戦闘隊と指揮官先頭

2015年05月22日 公開

歴史街道編集部

昭和17年(1942)5月22日、加藤建夫(たてお)中佐が戦死しました。「加藤隼戦闘隊」こと、傑作機・一式戦闘機「隼」を愛機とする、陸軍最強の飛行第64戦隊長として知られます。本日は「率先垂範の指揮官」加藤建夫についてご紹介してみます。

「一、いかなる困難にあたっても平常心を失わないこと、
二、何事も任務遂行を第一とすること、
三、個人の功名手柄に走って、団結を乱さないこと」

これは昭和16年(1941)12月8日の開戦直前、加藤が飛行第64戦隊の部下たちに示した3つの訓戒です。部下たちは教えを守り、開戦後、マレー、パレンバン、ジャワ(インドネシア)、ビルマ(ミャンマー)の空で連合軍機と死闘を演じて、赫々たる戦果を上げました。

そして、空戦の先頭には常に、翼と胴に白い襷〈たすき〉を描いた加藤戦隊長の愛機の姿があったのです。

明治36年(1903)、北海道旭川に生まれ、陸軍士官への道を歩んだ加藤は自ら希望して航空兵となり、昭和12年(1937)の支那事変で飛行第二大隊の中隊長として初陣を飾りました。帰徳航空戦では敵9機を撃墜して、一躍陸軍航空隊のエースとなります。

その後、陸軍大学と航空本部勤務を経て、加藤が飛行第64戦隊の戦隊長として広東に赴任するのは、昭和16年4月、加藤39歳の時でした。

「新たな戦隊長は歴戦のエース」と聞いた部下たちは、さぞかし鬼のような豪傑かと緊張しますが、現われた加藤が温和で親しみやすい人柄だったため、たちまち打ち解けます。飛行第64戦隊は新型戦闘機「隼」を用い、猛訓練を重ねました。

ちなみに64戦隊の隼は尾翼に矢印を描き、それが部隊のトレードマークとなります。

そして12月8日の開戦。加藤たちに与えられた任務は、開戦劈頭、マレー半島に上陸する輸送船団の上空護衛を前日から行なうことでした。

しかし7日当日、天候は荒れ模様。航空機には危険極まりない状況ですが、加藤は自ら先頭に立ち、愛機に乗り込みます。「率先垂範、指揮官先頭」こそ、加藤が生涯貫いた指揮官としての姿勢でした。

加藤らの上空掩護は日没2時間前までとされますが、加藤は珍しく上層部に抗議します。「船団は日没前が最も敵の攻撃を受けやすい。ぜひ日没まで掩護をさせてください」。

もちろん日没まで掩護すれば帰路は暗夜となり、戦闘機には甚だ危険ですが、加藤はあえて進言します。作戦への責任感からでした。

任務の困難さは加藤も十分承知しており、自分を含め特に技量の高い者を選んで、掩護に当たりました。そして船団上空でイギリスの偵察機を撃墜する戦果を上げます。

しかし7日夕刻から猛烈なスコールとなり、3人の部下が未帰還となりました。加藤は深夜1時まで、嵐の飛行場に立ち尽くし、3人の帰還を待ち続けます。

この日を皮切りに、64戦隊はマレー半島に上陸した部隊の障害となる敵飛行場を次々に攻撃、敵戦闘機を撃墜していきます。補給部隊が追いつかないほどののそ鮮やかな進撃ぶりから、「加藤隼戦闘隊」の名は陸軍最強の航空隊の代名詞となりました。

中でも加藤の存在感は圧倒的で、他部隊から異動してきた「空の宮本武蔵」の異名をとる黒江保彦大尉は、次のように語っています。

「雲の上を征く加藤隊長機には、恐るべき闘志と迫力が感じられて仕方なかった。(中略)殺気じみているようなすごい気迫のほとばしるのが見え、胸がたぎり立つ感じがした。『勇将のもとに弱卒なし』。この隊長のもと、なるほど部下はふるい立つ以外にない」

加藤は部下たちに、「何機撃墜したかと聞かれたら、部隊の撃墜数を述べよ」と個人の功名争いを禁じ、チームワークを重んじます。

また敵機との戦いに夢中になって任務を疎かにする者には、雷を落としました。しかし部下を叱った後は、さりげなく果物などを振る舞って、奮起を促したといいます。

その時は突然訪れました。昭和17年5月22日、ベンガル湾に面したアキャブ基地から部隊が東方のトングー基地に移動を始めていた時、加藤は前日にジャングルに不時着降下した部下の安否を知るため、最後まで残っていました。

そこへ突如、敵爆撃機が来襲し、加藤は迷わず愛機を駆って迎撃に向かいます。そしてインド洋上まで敵を追い、背後から攻撃をかけた瞬間、敵の銃弾で愛機の翼が火を噴き、加藤は海原に散りました。享年40。

しかし加藤が最期まで身を以て示した不屈の闘志は、薫陶を受けた部下たちが受け継ぎ、彼らは加藤を自分の目標として、「加藤隼戦闘隊」は終戦まで戦い抜くのです(辰)

イラスト:森計哉

 

iyashi

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