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陸軍兵力・軍艦数で劣る日本が、日清戦争で勝てた理由

2019年06月30日 公開
2022年06月28日 更新

原剛(軍事史研究家)

日清講和記念館・料亭 春帆楼
日清講和記念館・料亭 春帆楼(山口県下関市)
 

何が勝敗を分けたのか

こうした戦争の経過を見ていくと、日本軍はまさに連戦連勝といった具合だ。

なぜ、陸軍も海軍も清国軍のほうが優勢でありながら、このような結果となったのかと不思議に思う方もいるだろう。

しかし日清戦争は、日本が「勝つべくして勝った戦い」といえる。

なぜ、そういえるかというと、兵力では差があったとしても、軍隊の性格自体が全く異なったからである。

明治維新以来、日本の軍隊は徴兵制を採用し、国民的軍隊、つまり「国を守るために戦う」という意識を持った軍隊として確立していった。

さらに、一定年齢の若さと、一定水準の練度を備えた兵員から成る軍隊として成長していった。

対する清国の軍隊はというと、李鴻章や丁汝昌ら有力軍閥が、お金で雇った傭兵から成り、要するに国の軍隊ではなく、軍閥の私兵であった。

そうした傭兵だと、少しでも戦況が不利と見れば逃げてしまうし、そもそも訓練が行き届かず、練度が低くなってしまう。

主要な陸上戦闘における日清両軍の兵力と、戦死者の数を一覧にすると、下の表のようになる。

日清戦争の陸上戦闘力比較

この表でわかるように、各戦闘とも、両軍の兵力に大差はない。むしろ防御する側の清国軍のほうが、やや優勢ですらある。

それにもかかわらず、清国軍はだいたい約一日の戦闘で、敗退もしくは撤退しているのである。

これは、日本軍の優勢な火力や果敢な包囲攻撃によるものでもあったが、本質的には、不利と見たら逃げてしまう、清国軍の戦闘意欲の低さに原因がある。

つまるところ、日清両国の勝敗を分けたのは、軍隊の性格の違いといえよう。

余談ではあるが、日本軍は日清戦争によって、清国軍=すぐに逃げる弱兵というイメージを抱き、日露戦争後には中国人を蔑視するようになった。それが、のちの日中戦争時の、「一撃すれば、中国は屈服する」という誤った認識に繫がったのである。

また、勝敗を分けた要因としては、編制にも注目したい。

日本は師団の中に歩兵、騎兵、砲兵、工兵がいて、それぞれ役割分担ができるだけでなく、師団ごとに総合的な戦闘ができた。

対する清国軍は、歩兵と騎兵が主体で、砲兵は歩兵の中におまけのように入れられているだけであった。

大砲は、1門だけ撃っても、なかなか戦果はあがらない。4門一斉に撃つなどして、ようやく威力を発揮するのである。

そのためには、測量もしなければならず、練度が必要となる。その点、日本軍の砲兵は清国軍にはるかに優っていたといえよう。

さらに、戦略・戦術については、清国軍は場当たり的な戦い方が目立つ。

たとえば、成歓の戦闘で敗れた清国軍は、平壌で日本軍を迎え撃とうとして敗れ、さらに鴨緑江で迎撃しようとして敗退している。

平壌を捨てて、はじめから鴨緑江で迎撃していたならば、日本を苦戦に追い込むことも可能だっただろう。

それに対して日本軍は、大本営を中心に、戦争全体の見通しを立てつつ、戦略的に戦ったといえる。

最後に、黄海海戦について触れておきたい。この戦いにおいて、日本海軍は艦隊を縦一列に進める「単縦陣」を、清国軍は横一列に進める「横陣」を採用した。

単縦陣は、速力を生かし、陣形維持が容易で、しかも速射砲の威力を発揮しやすい。

対する横陣は、主砲の威力発揮と衝角戦法、つまり船首に取り付けられた衝角を敵艦にぶつけて沈める戦法に適している。

しかし横陣は陣形の維持が難しく、練度が高くなければならない。その点、練度の低い清国海軍には向いていなかった。

結果、単縦陣戦法で速射砲と速力の優勢を生かした日本海軍が、清国艦隊を撃破したのである。

“眠れる獅子”清国と、急速に近代化を進める日本の戦い──初めての近代戦において、日本は、兵数および軍艦数で清国にはるかに劣りながら、兵員の士気と練度、組織編制、戦略・戦術で優ることで、勝利を得たといえよう。

※本稿は『歴史街道』2019年7月号特集1「日清・日露戦争 名将の決断」より転載したものです。

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