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神田昌典×竹田恒泰<特別対談>今、必要な勉強とは〔2〕

2015年04月30日 公開
2023年07月03日 更新

神田昌典(経営・マーケティングコンサルタント),竹田恒泰(作家/慶應義塾大学講師)

 

 

「空間」の枠を取り払って考える

――一方、神田氏は、歴史を知ることだけでなく「空間」の軸を広げて考えることの重要性を主張する。

竹田 神田さんの「発信する目的」はどこにあるのですか?

神田 私の場合はある意味逆で、「日本単体ではこのままでは立ちいかなくなる」という危機意識が強いですね。
 単純に人口動態という視点から見れば、日本の人口はどんどん減っていき、中国や東南アジアなどの人口はどんどん増えていく。人口が国力だという考え方に従えば、日本の国力は低下する一方です。
 ただ、国という概念に縛られず、より広い世界、あるいは地球という「空間」で考えれば、これだけ人口が増加しているアジア諸国が目の前にあることは大きなチャンスです。PC世代の人にとっては、「国」という意識すらなくなる可能性もあります。

竹田 確かにイスラム国などが出てくると、国家の概念とは何かわからなくなってきます。あるいはGoogleなども、1つの国家だという見方ができる。いわゆる国際法でいう「国家」という概念は、いろいろな次元で崩れていくような気がします。

神田 そう考えたとき、国の威信をかけて反中反韓を唱えることがナンセンスに思えてくるのです。たとえば中国人の中にも、日本人を非常にリスペクトしてくれる人も大勢いるわけで、反日的な中国人は無視して、そうした人たちと直接つながればいい。
 これは半分冗談みたいな話なのですが、先日、中国の人から講演を頼まれた際、「このノウハウを明かすのは日本の損失になりますから」と冗談で言ったら、先方は真顔で「でも、神田先生が来ないことは、世界の損失になりますよ」と言い返されました。

竹田 見事に言い返されましたね(笑)。

神田 まぁ、うまい切り返しだな、というだけ話なのですが、要は中国にも国の枠を超えて物事を考えられる人が増えている、ということです。

 

改めて「勉強をする」とは何か

――そしていよいよ大上段から「学ぶことの意味」について話していただいた。一見好対照な両氏がたどり着いた一つの「共通点」とは?

竹田 この対談は「勉強の意味」がテーマなので、そろそろ本題に戻しましょう(笑)。この転換期に、勉強する意味とは何だと思いますか?

神田 ズバリ、カネです(笑)。

竹田 (笑)

神田 まぁ、身もふたもない話ですが、とくに今のような時代の変革期においては、勉強しないと食べていけなくなるかもしれない、ということは考えておくべきだと思います。
 たとえば明治維新後、旧来の武士の常識に縛られて新しいことを学ぼうとしない人は、食べていくことも難しかったと思います。時代の先を見越して新しいことを学んだ人だけが生き残れたし、その結果として豊かにもなった。時代を見据えて、自分に必要な知識を身につけていけばいくほど、単純に収入に結び付くというのは事実です。
 では、具体的に何をすればいいかと言えば、一言で言えば「今までと同じことをやっていてはダメ」ということに尽きると思います。

竹田 私も同感です。そういう意味で私は、やはり「これを勉強するとこういう得がある」という勉強は意外と役立たないと思います。だって、「勉強してこの資格を取れば、こういう収入が得られる」とわかっていたら、みんな同じことをやりますよね。そういうことをつまみ食いばかりすると、結局何の役にも立たない人間になってしまう可能性がある。ホームページも作れるし、デザインもできる、でもそんな人は他にごまんといるのです。

神田 竹田さんは「勉強する意味」はどうお考えですか?

竹田 私は「勉強する意味」は、「教育勅語」に書いてあることに尽きると思っています。教育勅語って、すごくよくできているのです。
 教育勅語は「人としてどうあるべきか」「近代国家の市民としてどうあるべきか」「国に対してどうあるべきか」と、大きく3つのブロックに分かれていますが、2つ目のブロックには、「勉強しなさい。職業を身につけなさい。知能を啓発して、徳のある人間になりなさい」ということが書かれています。
 そして、それは何のためかというと「世のため、人のために使え」とあるのですね。これこそまさに、勉強する意味だと思います。
 では、世のため人のためとはどういうことかといえば、その1つがまさに「ビジネス」だと思うのです。現代の消費者は厳しいですから、損をするようなサービスは絶対に受け入れない。つまり商売で成功するということは、人を幸せにしているということです。

神田 その考え方は、現代の欧米のマーケティングの潮流に非常に近いですね。私もかつてアメリカでMBA教育を受け、バブルも経験したのでよくわかるのですが、以前の欧米のマーケティングの考え方は「いかに豊かになるか」が中心でした。それが最近では、それこそ竹田さんが言うような「世の中のため」、あるいは「地球のため」に大きくシフトしているのです。それを意識しなければ経営は成り立たない、とすら言われている。

竹田 教育勅語とMBAが意外なところでつながるわけですね。ともあれ私はぜひ多くの人に、「勉強するのは世のため人のためであり、それが結局、自分の喜びとして返ってくる」という意識を持っていただきたいですね。

神田 私も教育勅語には興味があったのですが、どれを読んでも解釈が難しくて……。今の竹田さんの説明でやっと納得できました。
 私はこれからのビジネスマンには、「国」という概念を一度外して、いろいろなことを学んでほしいと思います。もちろん、日本人としてのアイデンティティを持つのは重要なのですが、それを持ちながら、国のフレームを外して考える。それが重要になってくると思います。

<本インタビュー簡略版は「THE21」2015年1月号に掲載/写真撮影:長谷川博一>

著者紹介

神田昌典(かんだ・まさのり)

経営・マーケティングコンサルタント、作家

上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士(MA)、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済局に勤務。その後、米国家電メーカー日本代表を経て経営コンサルタントとして独立。多数の成功企業やベストセラー作家を育成し、総合ビジネス誌では「日本のトップ
マーケター」に選出。2012年、大手ネット書店の年間ビジネス書売上ランキング第1位。ビジネス分野のみならず、教育界でも精力的な活動を行っている。
主な著書に『2022――これから10年、活躍できる人の条件』(PHPビジネス新書)、『ストーリー思考』(ダイヤモンド社)、『成功者の告白』(講談社)、『非常識な成功法則』(フォレスト出版)など多数。
アルマ・クリエイション株式会社代表取締役。一般社団法人Read For Action代表理事。

竹田恒泰(たけだ・つねやす)

作家

昭和50年(1975年)旧皇族・竹田家に生まれる。明治天皇の玄孫に当たる。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。専門は憲法学・史学。作家。平成18年(2006年)に著書『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)で第15回山本七平賞を受賞。最新刊『日本人が一生使える勉強法』を始め、著書多数。

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