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取締役になったらドラッカーを読むべき理由

2015年09月24日 公開
2023年05月16日 更新

山下淳一郎(トップマネジメント代表取締役)

平社員と取締役の仕事は「地球と宇宙」ほど違う

地球で方向性を規定するものは東西南北です。現在の位置を特定するものは緯度経度です。仮にあなたが、地上を飛び立ち宇宙に行ったとします。宇宙で方向性を規定しようと考えても宇宙に東西南北はありません。また、現在地を把握しようと思っても宇宙に緯度経度はありません。地球と宇宙とでは何から何まで勝手が違います。

それと同じように、これまで経験を積んできた分野の仕事と経営者の仕事は勝手はまったく違うのです。経営者になった本人も経営者としてどう仕事にあたっていいかわからないのです。経営者はその勝手の違いに戸惑いを感じながら、これまで経験した分野の仕事を手掛かりに、日々様々な難題と格闘しています。

これまで慣れ親しんだ仕事に引っ張られ、一つの部門の責任者としての仕事に専念してしまい、日々過密なスケジュールを全力で駆け抜ける中で、頭の中のリストから経営という仕事が消えていってしまいます。それが、経営者の現実です。

 

経営者の迷いを払拭する「ドラッカー5つの質問」とは?

経営者の仕事は、「考えること」「決めること」「行なうこと」、この3つに尽きます。こう言い切ってしまうと、あまりにもシンプルに聞こえてしまいますが、経営者の「考えること」は気が遠くなるほど多岐にわたり、経営者の「決めること」は絡み合ったコードの様に複雑で、経営者の「行なうべきこと」は体がいくつあっても足りないほど多くあります。

では、経営者の役割を果たすために、何を考え、何を決め、何を行なえばいいのか。経営者のそんな難題に助けの手を差し伸べてくれるものが、ドラッカー5つの質問です。これは、自分たちの使命は何か、自分たちはどんなお客様のお役に立ちたいのか、お客様が望んでいることは何かということについて、いろいろな角度から考えを巡らし、様々な視点から会社の考えをしっかり固めていきましょう、ということが質問形式でまとめられているものです。具体的には、以下の5つです。

第1の質問 われわれの使命は何か

第2の質問 われわれの顧客は誰か

第3の質問 顧客の価値は何か

第4の質問 われわれの成果は何か

第5の質問 われわれの計画は何か

ドラッカー教授はこう言っています。

「これら5つの質問は、正面から答えていくならば、必ずや、各位のスキルと能力とコミットを深化させ、あるいは向上させていくはずである。ビジョンを高め、自らの手で未来を築いていくことを可能にするはずである」

会社と言っても人間の集まりです。事業と言っても人間が人間に行なう行為です。人間が人間として仕事をするためには価値ある目的が必要ですし、仕事の向こうにいるお客様のことを考えなければ価値ある事業になり得ません。人間を離れて会社もありませんし、人間を離れて事業もありません。名経営者がドラッカーを読むのは、すべての物事の真ん中に人間を置いて、経営者としてのあるべき姿を教え導いてくれるからです。

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「使命」は決して、きれいごとではない >

著者紹介

山下淳一郎(やました・じゅんいちろう)

トップマネジメント〔株〕代表取締役

ドラッカー専門のマネジメントコンサルタント。東京都渋谷区出身。外資系コンサルティング会社勤務時、企業向けにドラッカー理論を実践する支援を行なう。中小企業役員と上場企業役員を経て、ドラッカーの理論に基づく経営チームのコンサルティングを行なうトップマネジメント〔株〕を設立。現在は、上場企業に「後継者育成のためのドラッカーの役員研修」「経営チーム向けのドラッカーのトップマネジメントチームプログラム」「管理職向けのドラッカーのマネジメント研修」を行なっている。著書に『日本に来たドラッカー 初来日編』『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方』(ともに同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)などがある。

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