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「つまらないデータ」を「特別なアイデア」に変える3つの技とは

2015年11月17日 公開
2023年05月16日 更新

三谷宏治(金沢工業大学虎ノ門大学院教授)

 

「比べる」技を鍛えるミニトレーニング
~新聞・雑誌を縦横に読む

 ビジネス講演をしていて、こんな質問をよく受けます。「普段は、どんな新聞や雑誌を読んでるんですか?」

 おそらく期待されているのは「『Business Week』英語版を」とか「『Financial Times』は欠かさず」とか「『文藝春秋』や『選択』が、シニアなエグゼクティブとの話題づくりにはいいですよ」といった答えです。

 おそらく質問者は「(元)コンサルタントたるもの、きっと何か特殊な情報源を持っているのだろう」と考えていて、「それはきっと英語や特別な会員誌に違いない」と思い込んでいるのです。

 もちろん、私の同僚・元同僚には、そういったまじめな人、語学に長けた人もいっぱいいます。でも残念ながら私は、違います。

 コンサルタント時代、定期購読していたのは、朝日新聞、日経新聞、日経ビジネス、日経情報ストラテジー、それに会社で日経MJ、といったところ。プラス、特集によって週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済、日経サイエンス、などを2~3カ月に1回、でしょうか。ネットではグノシーを利用していますが、毎回全部なんて読めません。

 私の日常の情報源として、特別なものは何もありません。これらをそこそこ読むだけで精一杯です(笑)。それでもそういった「ふつうのメディア情報」からの学びは非常に大きいと感じています。

 新聞や雑誌の記事の一つひとつには、いろいろな偏りや限界があります。事実(ファクト)だけでなく、必ず記者・執筆者によるトーン(肯定的、否定的、懐疑的、云々)がくっついていますし、基本的には「一過性」の情報です。

 これを自分の中で、客観的に、トーンを外し、時系列で見つめ直すことで、さまざまなことが見えてきます。縦横に比べながら読むのです。

「縦」に読むとは、関連する情報を自分で時系列に並べて比べること。自らの問題意識があれば、それと常に比べながら読み続けることもそうでしょう。
 それによって一般情報の中からでも、面白いものが見つけ出せます。

 一方「横」に読むとは、同じテーマを同時期に、メディア横断的に「比べて」その差から真実に近づく方法です。

 たとえば新聞を2紙、読み比べるだけでもいいかもしれません。私は活字マニア(活字なら何でも読む)だったので、中学生になったとき、親に頼んで朝日新聞をとってもらいました。当時、すでに地元紙の福井新聞等をとっていたので、わが家には一時期、毎朝4つの新聞が配達されていました(ただし田舎なので夕刊はない)。毎朝、自宅で「ひとりやじうま新聞」状態です。

 特に紙面の比較をしようと思って読んでいたわけではありません。それでも、一面トップをはじめとして、大きな違いや同一性が見えました。

 ネットを使えば、「横」に比べるのはもっと簡単です。検索や関連情報を辿れば、どんどん横に比較をすることができます。

 まだ歴史がないので過去に遡るのはちょっと苦手ですが、体制的意見、反体制的意見、よくわかんない意見、英語の意見、中国語の意見、ただのコピペ意見(これが圧倒的に多い)が一覧できます。

 匿名性が高く、何でもありなだけに面倒でもありますが、選別次第でかなり便利な「横読み」ツールとなります。

 

ハカる技を鍛えるミニトレーニング
~何でも概算してみるフェルミ推定

 細谷功さんの『地頭力を鍛える』で火が付いたフェルミ推定。これをやりまくるのも、ハカる技を育てるにはよい方法でしょう。ハカる技のための、ハカるセンス、が鍛えられます。

 量子論の黎明期を駆け抜け、原子力の父ともなった稀代の天才物理学者、エンリコ・フェルミ氏。
 その彼が、頭の体操としてつくった概算問題が、当時から「フェルミ問題」として知られていました。「シカゴにピアノ調律師は何人いるか? 概算せよ」といった具合のものです。
 簡単にはわからない数字を、既知の情報や仮定と、最小のステップで概算する、というのが彼の推定法のミソであり、価値のあるところです。

 1988年、社会人2年目でボストン コンサルティング グループ(BCG)の新卒採用担当を命ぜられたとき、面接用のケース(なぞなぞ)をつくりました。まだまだ人物を見抜く自信などなかったし、多くの学生が綿密に面接準備をしてきたりするので、簡単な問題では相手の素質が見抜けません。だから、ちょっとだけひねった問題をつくりました。

 それは「日本で年間使われるトイレットペーパーは何トンか?」でした。

 この問題にはさまざまな解き方がありますが、「日本トイレットペーパー協会に電話する」なんて答えではもちろんダメ(笑)。そんな協会は、ありません。

 考え方だけでなく答えを、その場で、かつ数字で概算せよ、という問題ですから、自分がいまわかる数字(仮定でもよい)につながるロジックを上手につくらないといけません。制限時間5分、で。

 学生さんたちは、さまざまな反応を示します。ぶつぶつ言いながらいきなり計算しだす者(主に理系)、大して考えずに質問し返してくる者(主に文系)、しばらく考えを廻らしている者、考えているように見えて実はフリーズ状態の者……。

 この問題をふつうに解いたとき、押さえるべきポイントは3つです。「ユーザーのセグメント分け」と「セグメント別使用量」と「グラム数」です。

 最初の「ユーザーのセグメント分け」は、概算するためのロジックの根幹でもあります。まずは使用者を男女に分けて考え、計算することと、使用する場所を家の中と外に分けることです。なぜならそれらが各々重要で、かつ大きな差があるから(たとえば男女では使用量が数倍違う)です。
 男子学生が、自分のひとり暮らしの家での使用量だけを数えて、それを1億倍しても、大外れとなります。

 あと2つの「セグメント別使用量」と「グラム数」は、概算の素になる数字です。これは日常への関心や観察力、もしくは常識レベル次第でとんでもない答えが返ってきたりします。
「毎日1人1ロールは使いますよね」とか、「1ロールは10メートルくらいとして」とかじゃあ、観察力なさすぎです。
「1ロールの重さって……1グラムぐらいですか?」と聞いてきた学生さんもいました。これはあまりにも常識なさすぎでアウト。

 もちろん、面接自体はこの問題に「正解できるかどうか」を問うものではまったくありません。

 学生さんが、ちゃんと自分の頭で考えられて、こちらの出すヒントを理解して、楽しく議論ができて、結論まで何とか辿り着けるか。ケース(なぞなぞ)は、そういった議論展開力やコミュニケーション力を見るための道具のひとつに過ぎないのです。

 なのに、面接後すぐ「A社で今日出た問題」「B社ケースの解答例」がネットで出回るのは、ホント困ったもの。でも学生諸君は、それらを活用してみるのもいいでしょう。ただしそれは面接準備のためではなく、ハカる力や姿勢を身につけるために、です。

 でも解答は、すぐには見ないこと。3日は自分で考えましょう。
 自ら考えないなら、面接問題対策は思考の停止やパターン化につながり、逆に自身の身を滅ぼすための訓練となってしまうでしょう。

 

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著者紹介

三谷宏治(みたに・こうじ)

K.I.T.〔金沢工業大学〕虎ノ門大学院教授

1964年大阪生まれ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業後、外資系コンサルティング会社に就職。以来19年半、ボストンコンサルティング グループ、アクセンチュアで戦略コンサルタントとして働く。2003年から06年までアクセンチュア 戦略グループ統括。途中、INSEAD(仏フォンテーヌブロー校)で経営学修士(MBA)修了。
仕事と並行して28歳頃から社会人教育に携わり始め、32歳からグロービスで「経営戦略」などの講師を務める。06年から教育の世界に転じ、地元小学校でのPTA会長などを経て、07年からK.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授を務める。同時に、「決める力」「発想力」と「生きる力」をテーマにした授業や講演で全国を飛び回る。年間7,000人以上の社会人・子ども・保護者・教員に接している。現在K.I.T. 虎ノ門大学院教授の他に、早稲田大学ビジネススクール客員教授、グロービス経営大学院 客員教授、放課後NPOアフタースクール 理事、NPO法人3keys理事、永平寺ふるさと大使を務める。

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