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鈴木敏文、稲盛和夫……今の日本を代表する名経営者たちの仕事術

2016年04月20日 公開
2023年01月12日 更新

勝見明(ジャーナリスト)

 

柳井 正(ファーストリテイリング会長兼社長)

柳井正

写真撮影:村山雄一

 

 きりっとした表情。会った瞬間にまじめな人柄が伝わってくる。ファーストリテイリング(FR)の柳井正会長兼社長のまじめさは、仕事術にも滲み出る。最も大きな特徴は、まず目標を設定し、そこからさかのぼってやるべきことを決め、着実に実行する「逆算の経営」だ。

 読書家の柳井氏は「逆算」の大切さをある書籍から学んだ。米国の多国籍企業の元経営者ハロルド・ジェニーン氏の回顧録『プロフェッショナルマネジャー』だ。1984年のユニクロ第1号店オープンの翌年、創業の地・山口県宇部市の書店で購入して以来、「最高の教科書」として、線を引きつつ、表紙がボロボロになるまで読み返した。中でも最も影響を受けたのが次の「3行の経営論」だった。

「本を読む時は、初めから終わりへと読む。/ビジネスの経営はそれとは逆だ。/終わりからはじめて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ」(ジェニーン氏)

 それまで努力すれば結果はついてくると思っていた柳井氏は衝撃を受け、以降、逆算発想に転じた。

「本は最初から読むけれども、経営は最終章から読まなければならない。大事なことは、ゴールを設定しない経営などないということです」(柳井氏)

 逆算のプロセスで注目すべきは、節目節目にもそれぞれの段階に応じた目標を示し、その実現に必要な手だてを講じ、成果が確実に出るようにしていることだ。その実現を後押しするのが柳井流の「シンプル発想」である。本人が話す。

「『できない理由』を考えるために考えるのではなく、僕は『できる理由』を考える。1店舗作るのも、300店舗を作るのも変わらない。どうやったらできるかを考え、着々と実行していけばできる。経営とはシンプルで、そんなに難しいことではないのです」

「逆算の経営」と「シンプル発想」がFRの成長を支えている。

 

三木谷浩史(楽天創業者)

 楽天の三木谷浩史会長兼社長の取材で本社を訪ねると、昼休みにジョギングをしてきたばかりの本人に出くわしたりする。一橋大学時代は体育会系テニス部主将。運動は練習を日常の中に組み込んだものが強くなれる。三木谷氏は仕事においても、目標を設定したらそれを達成できるよう、社員たちの日々の行動の中に習慣を組み込む。これを「仕組み化」と呼ぶ。

 たとえば、三木谷氏は銀行マン時代、社内留学試験に合格するという目標を立てると、毎朝1時間早く起き、誰にも邪魔されない時間に英語を勉強する習慣を生活に組み込んだ。

「毎朝1時間の早起きと勉強を組み合わせたことで仕組み化され、社内試験をクリアできたのです」(三木谷氏)

 楽天の社内会議は、前日の午後5時までに資料を参加者全員に配布するルールを設けたことで、1時間以上かかっていたのを10分に短縮。スピード化を仕組み化した。

「仕事の仕組み化」で「世界一のインターネットサービス企業」という一大目標を目指すのが楽天だ。

 

古森重隆(富士フイルムホールディングス会長・CEO)

 古武士を思わせる風貌はいかにも「部隊長」を感じさせる。富士フイルムの古森重隆会長は、実際、仕事を「戦場での戦い」にたとえる。

「指揮官が単に命令を下すだけでは部下は思うように動きません。まずは形勢が逆転するような高い目標とその意味合いを明示する。次に、自軍および相手方の現状と、予想される戦いについて、はっきり伝える。そのうえで勝つための戦略を示し、各自に役割を与える。部下たちは、『これなら勝てる』という筋道が見えれば、力を振り絞って戦います。そして、戦った結果について、どこがよかったか、どこを反省すべきか、節目節目できちっと総括してやる」(古森氏)

 それには「上司も口先だけでなく、現場で一緒に戦わなければならない」とも言う。古森氏が行なったのは、部下たちとの毎月の「合宿」だ。この合宿の成果を翌週から現場で一緒に実践していく。

 本業である写真フイルム事業の喪失という試練を乗り切れたのも、古森式の「ともに戦う仕事術」があったからだった。

 

《『THE21』2016年4月号より》

著者紹介

勝見 明(かつみ あきら)

1952年、神奈川県生まれ。東京大学教養学部中退。経済・経営分野を中心に執筆活動を続ける。各種の企業事例の「成功の本質」を見抜く洞察力に定評がある
近著に『石ころをダイヤに変える「キュレーション」の力』(潮出版社)がある。

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