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会社員に「がん保険」はいらない?

2016年04月21日 公開
2023年05月16日 更新

佐藤敦規(FP・社会保険労務士)

現実を見据えれば「障害年金」という選択肢も

離職しないで済むといっても、現実的には治療に専念するため一旦、休職。回復したら負担の少ない職務に復活というのが一般的な流れであろう。復職したとしても体力的な面や通院があるため、離職前のように働くのは難しい。給料面でも復職前の水準どころか、休職時に支給されていた傷病手当金の額をも下回り、新入社員と同じレベルになってしまう恐れがある。そこで検討して欲しいのが「障害年金」である。
障害年金とは、老齢年金、遺族年金と並ぶ公的年金の一つである。障害基礎年金と障害厚生年金からなり、病気や怪我で働けなくなったときに支給される。ただし、請求して認定されることが必要である。

心情的に「障害年金なんてとんでもない。障害者手帳など絶対に持ちたくない」と考える人も多いであろう。
ただ、障害年金と障害者手張の有無は、基本的に関係がない。障害者手帳を持っていなくても障害年金を受給できる(逆もあり)。また民間の就業不能保険などと混同して、障害年金をもらうと働けなくなると思いこんでいる人がいるが、働きながらでももらえる。特に障害厚生年金の3級は、障害基礎年金にない制度で会社員だけの特権である。労働に著しい支障や制限がある。職場の理解や援助などの配慮の元で就労できる(短時間労働など)状態であるときに支給される。まさにがん治療のため、短時間勤務で職場復帰したときのような状況があてはまる。

障害厚生年金の支給額は、就職してから25年以内であれば勤務年数を300月分とみなして計算される。障害厚生年金3級の平均月額受給額は5.9万円。1月、6万では全然足りないかもしれないが、全額非課税だ。職場から月20万の給料を貰えれば、なんとか生活できる。それが4~5年にわたって支給されれば、300万円を越える。300万円の給付金をがん保険で賄うには、それなりの保険料を支払わなければならない。

 

会社に報告しない人が意外に多いという現実

がんの治療を受けながら働き続けるために重要なことがある。それは会社(上司)に報告することである。解雇を恐れてか、意外とがんにかかったことを報告しない会社員は多い。アフラック(アメリカンファミリー生命保険株式会社)の調査によれば、役職者ほどがんと診断されたとき会社に報告しない傾向があり、3割の人が報告しないという。

しかし、私は早めに会社へ報告したほうがよいと考えている。がんにかかれば、今までのようなパフォーマンスができるとは限らない。かといって仕事を優先し、治療がおろそかになっては元も子もない。会社の命運を左右するようなプロジェクトのリーダーを任されている場合、適切な後任者の選定や引継ぎが必要になる場合もある。それを円滑に進めるためにも、早めに正確な状況を伝えたほうがよい。

正直に会社へ報告して厳しい結果になった場合でも、支援してくれる人は必ずいる。繰り返すが、がんは不治の病から長く付き合う病気へと変化している。治療して直すことができれば、再び仕事で活躍できるときがくるはずだ。

著者紹介

佐藤敦規(さとう・あつのり)

FP・社会保険労務士

1964年東京生まれ。中央大学卒業後、パソコン関連誌の編集に携わる。30代中盤からは印刷会社に勤務し、テクニカルライターとして家電製品からシステム関連まで100種類以上の取扱説明書を作成。2年前よりFP・社会保険労務士に転向。のべ700人以上のライフコンサルタントを行っている。著書に『税理士ツチヤの相続事件簿』(星雲社)などがある。

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