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なぜ「家計管理」を習う女性が増えているのか?

2016年05月10日 公開
2023年05月16日 更新

高橋成壽(ファイナンシャルプランナー)

未来の不安を抱えた女性の新しい習い事

「習い事」に通う女性は元々多いが、最近では新しい習い事として「家計管理」を習う女性が増えているという。その理由はどこにあり、どんなことが教えられているのか。女性向けの家計管理口座を開いているファイナンシャルプランナーの高橋成壽氏にご寄稿いただいた。

 

将来のお金について不安を抱える女性たち

「自立した大人の女性として家計管理を習慣化し、お金の不安を解消したい」

そう考える女性が増えてきています。私たちの提供する「マネーレッスン」という会員制の家計管理講座では、毎月1回、20代から60代まで多様なバックグラウンドの女性たちが集まって、家計管理の習慣を身につけようと真剣なまなざしで取り組んでいます。

はじめまして。横浜市を中心に家計管理のお手伝いをしております、ファイナンシャル・プランナーの高橋成壽と申します。THE21オンラインをご覧の皆様からは「ファイナンシャル・プランナーって何やってるの?」そんな声が聞こえてきそうですが、本記事をご覧いただければ、納得していただけるものと思います。

そもそもなぜ、多くの方が家計管理講座に参加しているのか。参加者の方にアンケートを取ってみたところ、「貯蓄が少なく自分流の家計管理に不安を感じていた」「大人の女性としてお金に関する最低限の知識をつけたかった」「家計簿をつけてみたところ、使途不明金が多く不安になった」「手遅れになる前にお金に対する考え方を学びたかった」などといった不安や不満足に起因している方が多いことがわかりました。「投資や資産運用に興味があった」という方は少数で、多くの人が将来への不安から「自分のお金を守る」ことに強い関心を持っているようなのです。

 

家計管理とは「家計簿つけ」とは違う

ただ、ここで私が教えている「家計管理」とは、「お金を貯める」ことを第一の目的にはしていません。支出を許容しますし、むしろ人生を豊かにするお金の使い方を身につけ、そのためには積極的に支出をしていくことを勧めています。

私は家計管理を「(1)収入と支出を把握するため、入りと出を記録する」「(2)自分にとっての支払いの意味づけを明確にする」「(3)自分の人生がより豊かになるよう予算化によって支払いをコントロールし」「(4)特定の支出傾向の改善を繰り返しながら人生の目的達成に近づくようにお金を使っていくこと」と定義づけしています。

家計管理というと一般的に、家計簿づけと同一視されがちです。ですが、私の家計管理の定義においては(1)にすぎません。にもかかわらず、ここにばかり力を入れて、挫折する人が非常に多いのです。

 

1円単位の記録は不要、というより有害?

家計簿づけで求められることは、1円単位で正確に記録すること。ただ、これは並大抵のことではありません。つい金額をメモするのを忘れてしまったりすることも多く、そのたびに挫折感を味わうことに。毎月毎月挫折を繰り返していたら、自信を失ってしまいます。

また、家計簿づけの問題は、正しく漏れなく記録することが目的化してしまうこと。家計管理は人生を豊かにするためであり、目的ではないのです。銀行ではありませんから、1円単位の残高違いは無視すべきなのです。

最近は収入と支出をスマホで管理できるアプリがたくさん出ているので、1円単位の管理が比較的容易にはなっています。アプリはレシートの写真を撮るだけで、支出の仕訳をしてくれるなど便利な機能がついています。しかし、そこに落とし穴があります。1円単位の管理ができたことで満足してしまい、その先を考えなくなってしまうのです。

 

「その支払いの意味は何か」を考える癖を

では、その先とは何かと言えば、支払いの意味づけです。つまり、「そのお金を払う意味は何か」ということです。

お金を払うたび、買い物をするたびに支払いの意味づけを考えると、おのずと支出は減ってきます。つまり「この買い物をすることで、自分の人生の目的は達成されるのか?この買い物に意味はあるのか?」を毎回考えるようになるのです。すると、お金の使い方にメリハリが出てきます。

例えば、家計講座ではこのように考えます。

スーパーで買い物をしているとします。一通り買い物を終えて、レジに並ぶと美味しそうなお菓子が手の届くところに陳列してあります。思わず手を伸ばしてみたものの、「このお菓子は家計簿をつけるときに、どんな意味を持つのだろう」と立ち止まって考え始めます。

生活必需品?無駄遣い?心の潤い?……ここでお菓子を買ってしまったら、心の潤いになるけれど、そんな理由での買い物が増えている気がする。来月の家計講座での家計簿振り返りもあるし、今日はお菓子の買い物をしないようにしよう!

このように、支払いと意味を紐づけることで、買い物をすることで得られる効果に意識が向くようになり、自然とムダな出費も減っていくのです。

 

月数万円の出費がゼロになったA子さん

ネットショッピングが好きなA子さん。毎月、数万円の洋服や雑貨をインターネットで注文していたのですが、講座を受講し始めてから、ネットショッピングの金額が激減しました。その理由の一つが、この「買い物の意味づけ」だったそうです。

この洋服を買ったら楽しいだろうな、こんなバッグがあったらいいな、とついつい買いすぎてしまっていたA子さんは、自分の買い物の傾向が「心の潤い」ばかりにあることを自覚しました。その結果、将来の貯蓄ができていない自分に気づき、以来、ネットショッピングを自制するようになったそうです。ネットショッピングに費やしていた毎月数万円の支出が、驚くことに0円になったそうです。

これが、意識の習慣化の一端です。今、自分が行おうとしている買い物は、生活に必要なのか、無駄遣いなのか、生活を彩る類のものか、という点を考える癖がつくことが重要なのです。

こんな事例もあります。行動の早いBさん。家計の無駄を感じながらも、自分だけでは改善点がわかりませんでした。しかし、講座を通じて自分のお金の使い方の傾向を見直してみた結果、余暇や通信費などに無駄を発見。早速通っていなかったスポーツジムの契約を解消して、通信費もプランの見直しで余剰を捻出できました。

自分の現在と将来に関する漠然としたお金の不安は、年代を問わずに存在するもの。その解消に、家計管理講座を受講する女性たち。実際に参加してみると、女子会的な楽しさがあり、筆者のような男性が参加すると、場違いな気持ちになりますが、今後は男性向けや、男女混合クラスなどを増やしていくことで、男性特有のお金の使い方や、男女差によるお金の使い方と考え方の違いを明確化にし、ノウハウを広めたいと考えています。

著者紹介

高橋成壽(たかはし・なるひさ)

寿FPコンサルティング代表取締役

日本FP協会認定CFP。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、投資商品の営業、外資系生保の営業を経て、ファイナンシャル・プランナー会社を設立。女性のお金に関する悩みを解消するサービスとして、家計管理講座「マネーレッスン」を開講中。

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