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大半の人が払いすぎ!? 「保険料」の大誤解

2016年09月27日 公開
2023年05月16日 更新

後田 亨(オフィスバトン「保険相談室」代表)

 

いつ、どんな病気になるかわからないから「医療保険」には入っておくべき?……×

 医療保険は、がん保険以上に、入る必要がない保険と言えます。入院1日につき5,000円、手術の場合10万円が給付される商品の場合、1カ月入院しても給付額は25万円です。そのためにいくら保険料を払うのか。「保険は250万円や2,500万円といった大きな額のお金のためにあるのではないか?」と考えてみてください。

 そもそも、日本では誰もが健康保険に加入しています。たとえば、高額療養費制度では、個人の1カ月の医療費負担の上限が決められています。保険会社の負担に限度が設けられている民間の保険とは対照的です。この制度では、70歳未満で月収が28万~50万円の人の場合、医療費は最高でも月9万円程度に収まります。

 実際、健康保険の保障内容などをよく知る保険会社の人たちは、医療保険にはまず入りません。「よく売れるから売られている保険」とさめた目で見ている人が少なくないのです。

 

自己資金でまかなえるなら、日帰り入院などの保障は不要?……

 自動車保険に加入するとき、多くの人は、人やモノに損害を与えた際の損害賠償に関する保険金の額を「無制限」に設定します。死亡事故の加害者になった場合には億単位の賠償金が発生することもあるため、2,000万円や3,000万円といった限度額を設けないで、無制限にするのです。

 一方、自分のクルマが損害を被った場合に備える車両保険については、加入しない人も少なくありません。安い中古車に乗っている人であれば、仮に盗難に遭ったとしても、数十万円の自己資金で買い替えることができると判断するわけです。

 つまり、死亡事故の加害者になるといった「滅多に起きないけれど、起きたら大変なこと」には保険で備える一方で、自己資金で賄えることは保険に加入しない。そうすることで、全体の保険料を抑えているわけです。

 死亡保険や医療保険も考え方は同じです。頻発しないけれど影響が甚大なケースだけ保険で備えるのが正解です。ところが実際には、人生設計に影響を与えるとは思えない日帰りの入院保障などにこだわる人が少なくありません。「入院したのに給付金がもらえないのは悔しい」といった情緒的な選択がなされると、保険料負担は増えるばかりです。人は、自分の身体にかける保険のことになると、冷静さを失いやすいのかもしれません。

 

「かけ捨て」の保険はソンをする?……×

「かけ捨てではない保険のほうがトクだ」と考えている人は少なくありません。確かに、かけ捨ての場合、契約期間中に何も起きなければ、支払った保険料は1円も戻ってきません。一方、貯蓄部分もある保険では、無事に満期を迎えたとき、保険料総額を上回るお金が戻ってくることもあります。また、中途解約をしても相当額の払い戻しが行なわれます。

 しかし、現実には、貯蓄型はまったくおトクではありません。保険の場合、契約後、多額の代理店手数料などが引かれるため、大きなマイナスから積み立てが行なわれることになるからです。そのため、契約後、数年間から長いものでは数十年、元本割れが発生します。「長期的にはプラスになる」という説明もありますが、「会社の都合でお金が減った状態からの貯蓄が始まり、挽回に時間がかかる迷惑な仕組み」と理解すべきです。

 実際、保険会社は、集めた保険料から運営費を引いたお金を、主に国債で運用しています。そうであれば、保険会社に高い手数料を支払って運用してもらわなくても、自分で国債を買ったほうがいいでしょう。

 保険の価値は保障にあります。貯金などでは対応できない額の保険金が約束されるのは、加入者のお金が不測の事態に遭った人のために使われ、何事もなかった人には戻ってこない「かけ捨て」の仕組みがあるからです。貯蓄は保険会社を介して行なう必要はないのです。

 

中途解約する気がないなら「貯蓄もできる保険」がおトク?……×

 一生涯の保障がある「終身保険」などは、中途解約をすると保険料の返戻率が100%未満(払った保険料を下回る金額しか戻ってこない)の期間が長く続きます。ただし、年数が経過するにつれて徐々に返戻率が高くなり、最終的には120%を超える加入例なども紹介されています。120%ということは、保険料の総額が700万円の場合、840万円ものお金が払い戻しされるわけです。このような例を見ると、「やっぱりかけ捨てにならない保険のほうトクじゃないか」と思われるかもしれません。

 しかし、「遠い将来、手にできるお金」については、その価値をかなり割り引いて評価するのが金融の常識です。断じて、額面どおり「20%おトク!」とはならないのです。貨幣価値が変わらないか、老後まで契約が継続しているのか、保険会社が破綻する可能性はないのか、など「不確実なこと」が多いからです。

 実際、個人保険の解約・失効率は、商品にもよりますが、例年、3~6%台といったところです。ある年に保険契約を結んだ人が100人いたとして、毎年6%のペースで解約者が出るとすると、25年後も契約を続けている人は21人。3%でも47人と試算されます。長期契約ゆえに、環境の変化などから相当数の解約が発生するのでしょう。「中途解約しなければ……」という損得勘定は、そもそも前提が怪しいのです。

 

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中途解約すると損でも納得いかない保険は見直すべき?…… ○ >

著者紹介

後田 亨(うしろだ・とおる)

オフィスバトン「保険相談室」代表

1959年、長崎県生まれ。長崎大学経済学部卒業。95年、アパレルメーカーから日本生命に転職。約10年、営業職として在籍。2007 年、複数社の保険を扱う代理店に在籍中に上梓した『生命保険の「罠」』(講談社+α新書)がベストセラーに。その後、独立し、12年より「保険相談室」代表として、保険の有料相談、執筆、講演などに従事。著書多数。

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