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トランプ本訳者が語る「トランプ氏の意外な一面」とは?

2016年11月17日 公開
2016年11月17日 更新

月谷真紀(翻訳家)

実は典型的なエリートビジネスマン?

2016年のアメリカ合衆国大統領選挙は、大方の予想を覆す逆転劇で共和党のドナルド・トランプ氏が、民主党のヒラリー・クリントン氏を破り、次期大統領に決まった。2016年11月現在、世界中の関心がトランプ氏の一挙一動に集まっていると言っても過言ではない。

そこで今回、トランプ氏の著書『トランプ思考』の訳者である月谷真紀氏に、ニュースが伝えない、型破りな男の「意外な一面」について、お話をうかがった。

 

日本のメディアが報じないトランプの「別の顔」

約1年半前の2015年6月、ドナルド・トランプは2016年大統領選挙への出馬を表明した。当初は泡沫候補と見られていたが、予備選挙が始まってみればあれよあれよという勢いで多数の州を制す予想外の快進撃。共和党の有力候補に大きく水をあけ、指名をものにしてしまった。大手メディアからは大統領には不適格な人物であるとして次々と批判の声が上がった。ところがトランプの勢いは止まらない。過去の醜聞が暴露されたり、同じ共和党内の有力政治家から反旗を翻されたりとピンチに陥りながらも、対抗馬で民主党のベテラン政治家、ヒラリー・クリントンと五分五分の戦いを繰り広げてみせた。

そして2016年11月9日、大統領選の結果はまさかのトランプ当選。接戦とはいえ最後はやはりクリントンだろうと予想していた世界中を驚かせた。

しかし、不法移民を閉め出すために「メキシコとの国境に壁を作る」など物議をかもしたトランプの極端な発言の数々が、実は冷静な計算に基づくものだったという意見がある。2016年4月27日に放映されたNHKの「クローズアップ現代」では、トランプ陣営の選挙参謀を務めていたサム・ナンバーグ氏が「ターゲットとする層の有権者から票を獲得するために、大衆受けのいい不法移民問題を選び、強硬姿勢をとってみせている」「集会で過激な演説をして反応をテストした」などと明かすコメントを紹介した。トランプを間近に見ていた元側近の目には、メディアから伝わる自己顕示欲の強いビッグマウスという人物像とは異なる姿が映っていた。そんな別の顔がかいま見られるのがこの『トランプ思考』である。

『トランプ思考』は、ドナルド・トランプが自身のウェブサイトのために書いた記事を中心に49篇をまとめたエッセイ集である。ブログもあれば、ニュースレターの記事として書かれたものもあり、そのため語り口も長さも気軽に読める。特に社会に出る前後の若者を対象として意識しているようで、ビジネスについてのノウハウではなく物の考え方、取り組む姿勢を小気味よく提示している。若者だけでなく幅広い年代の読者にも面白く読んでいただけると思う。

 

「奇跡の復活劇」の裏にあった大胆かつ緻密な思考

本人も何度か触れているが、トランプは不動産開発事業者として成功した後、不況の影響で資金繰りに苦しみ財政問題を抱えた。世間からは「もう終わった人」と見なされたほどだったが復活をとげ、ゴルフコースの開発やホテル事業などにも進出。個人的にもラジオやテレビ番組に出演し、なかでもリアリティ番組『アプレンティス』は大ヒットするという精力的な活躍ぶりである。ミスユニバースやミスアメリカ大会をプロデュースする団体に関わったり、プロレス団体のオーナーであるヴィンス・マクマホンと親交があるなど、派手な話題も多い。

それだけに人一倍大きなエネルギーとエゴの持ち主で、本書の中にも自画自賛めいたエピソードがところどころで披露されるのだが、ビジネスに対する姿勢は意外にも堅実である。スピードとハードワークの信奉者という点は彼らしいが、信用と評判を築き上げることの大切さを訴え、地道な下準備をおろそかにするなと説いている。ただし頭の悪い働き方をしても何のメリットもないと釘を刺し、自分のエネルギーの流れ(勢い)との付き合い方を伝授するところはやはりトランプらしい。

 

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