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日本人の元気を失わせる「過剰清潔社会」の問題とは?

2017年02月07日 公開

藤田紘一郎(東京医科歯科大学名誉教授)

腸が喜ぶ「健康でストレスのない生き方」とは

「電車のつり革につかまることができない」「宴会で鍋料理をつつけない」、あるいはオフィスでも「どの部屋に入るにも消毒が必要」「風邪でもないのに常にマスクをしている」……「清潔さ」について過剰反応する人が増えている。だが、メディアへの出演も多い医学博士の藤田紘一郎氏は、「過剰な清潔志向は百害あって一利なし」と断言する。行きすぎた清潔社会に警鐘を鳴らすとともに、健康かつストレスなく毎日を過ごすための生活習慣について教えてもらった。

 

行きすぎた清潔社会のリスクとは?

ビルの入り口では抗菌剤で手を消毒。仕事中でもマスクを着用。他人が使ったペンや受話器をいちいちふき取る……。最近の職場でよく見かける光景だ。もともと清潔好きの日本人だが、少々窮屈にも思える。しかもこうした「行きすぎた清潔志向」は有害ですらあるという。

「日本人はマスクや殺菌剤などで菌を排除する傾向にありますが、実は非常に『もったいない』こと。菌は私たちにとってむしろ、良い働きをしてくれることが多いのです。空気中や土壌、そして人の身体についている雑菌と呼ばれる菌は、むしろ積極的に身体に取り込むべきです」

寄生虫の研究で知られる医学博士の藤田紘一郎氏はそう話す。通常は排除されるべきとされる「菌」を身体に取り込んでも大丈夫なのだろうか。

「実は最近の研究で、人間の健康の大部分は『腸内環境』で決まることがわかってきています。腸内にはおよそ200種100兆もの腸内細菌がいて、これら無数の腸内細菌が腸内に『腸内フローラ』という『細菌のお花畑』を形成しています。それが活性化すればするほど、健康にいい影響を与えます。そして、そのためにはより多くの種類の菌を取り込むのが一番なのです」

腸内細菌は三つに分けられる。善玉菌、悪玉菌、そして日和見菌だ。善玉菌を増やして悪玉菌を減らせばいいように思えるが、そう簡単な話ではない。

「本来、腸の中に善も悪もないのです。たとえば悪玉菌として『大腸菌』がありますが、これもビタミンを合成したり、他の有害な細菌が大腸に定着するのを阻害するなどいい働きもしてくれる。ただ、これが増えすぎると問題が起きるわけです。

また、乳酸菌に代表される善玉菌を増やすことももちろん重要ですが、いくら善玉菌を摂取しても、増える量には限りがあります。そこで大事なのが『日和見菌』を増やすことです」

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著者紹介

藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)

東京医科歯科大学名誉教授

1939 年、中国東北部(旧満州)生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学医学系大学院修了。医学博士。金沢医科大学教授、長崎大学教授、東京医科歯科大学教授を経て、現在は同大学名誉教授。専門は寄生虫学と熱帯医学、感染免疫学。1983 年に寄生虫体内のアレルゲン発見で小泉賞を、2000 年にはヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会社会文化功労賞および国際文化栄誉賞を受賞。著書多数。

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