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なぜ、日本人の「残業」はなくならないのか?

2017年08月31日 公開
2023年03月23日 更新

常見陽平(千葉商科大学専任講師)

 

日本人はだらだらと働いてなんていない! 

ただし、だからといって「正社員の長時間労働を助長するメンバーシップ型はけしからんから、日本もジョブ型に切り替えるべきか」というと、そんなに簡単な問題ではありません。 

ジョブ型の場合、業務が忙しくなればポストを新たに作って人を採用し、暇になればポストを削って人を解雇するといったことがわりと容易に行なわれます。 

一方、日本のようなメンバーシップ型は、長期雇用を前提にしています。ある部門で人員の削減を行なうときには、別の部門に異動させることで雇用を守ります。会社の業績が悪化したときでも、できるだけ解雇はせず、ボーナスを減らすことなどで対処します。そのぶん忙しくなったときには、人員を増やすのではなく、今いる人たちにたくさん働いてもらう(残業してもらう)というかたちをとっているわけです。働く側としては「残業は多いが、雇用は安定している」というメリットがあります。つまり日本の正社員の残業が多いのは、日本的雇用の副産物であり、それなりの合理性があるのです。 

もちろん、いくら合理性があるといっても、働く人の生活や健康を犠牲にしたり、時には命さえも奪ったりするような長時間労働のあり方は、当然問題があります。長時間労働を是正しようとする動きそのものは、間違っていません。

しかし本当に現状を変えたいのであれば、なぜ日本の正社員は長時間労働になっているのか、その原因をまずは分析するべきです。そのうえで、たとえばメンバーシップ型の雇用システムが原因であることがわかったならば、そのシステムを今後も維持するのか。もし維持するのなら、維持しながらも残業時間を減らしていくためにはどういう対策が可能か、といった手順で考えていくことが不可欠になります。原因を分析したうえで対策を講じることをおろそかにしたまま、ひたすら個人や企業の意識改革や工夫に委ねようとしているところが、働き方改革の大きな問題点です。 

また、私は「日本人は労働生産性が低い」という言葉にも、強烈な違和感を覚えます。確かに2015年のOECD加盟諸国の時間当たり労働生産性のランキングを見ると、日本は先進7カ国では最下位の20位にランクされています。財政破綻をしたアイスランド(19位)やギリシャ(27位)とも、あまり順位は変わりません。 

でも、これは、いくらなんでも低すぎると思いませんか。実はランキングで上位に位置しているのは、金融センターや資源を持っている国、都市国家的な小規模の国ばかりです。つまり、利益率の高い産業を持っている国が強いのです。一方、日本はGDPベースでも、就業者数ベースでも、サービス業が全体の7割を占めています。 

ですから日本の労働生産性が低いのは、日本人がだらだら働いているからではなく、国が儲かる産業を育ててこなかったことに原因があるわけです。にもかかわらず国が労働者に対して、「もっと効率的に働いて、生産性を上げよう」とけしかけるのは、責任転嫁ではないかと思ってしまいます。

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著者紹介

常見陽平(つねみ・ようへい)

千葉商科大学専任講師

1974年生まれ。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。㈱リクルート、㈱バンダイ、㈱クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て、2015 年より現職。働き方をテーマに執筆・講演などを行なう。『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)など、著書多数。

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