THE21 » キャリア » 「個」の力が組織を凌駕する時代の経営論【前編】

「個」の力が組織を凌駕する時代の経営論【前編】

2017年11月13日 公開
2017年11月13日 更新

【連載 経営トップの挑戦】第25回 須藤憲司

 

英語がわからなくてもアメリカで起業はできる!

――素敵な社名はどう決められたのでしょう。アメリカで起業されたということで、海外でも通用する言葉を厳選されたのでしょうか?

須藤 実は、社名は消去法で決めたのです。僕は歌手の椎名林檎さんが好きなのですが、椎名さんは日本語と英語を組み合わせたユニークな曲名をつけます。『丸の内サディスティック』とか。あのセンスがすごくいいなと思い、自分もアメリカで起業することもあって、「海外でも通じる日本語と英語を組み合わせよう」ということになりました。

しかし、共同創業者の石橋(前ページ写真右)らと「海外でも通じる英語」を考えたところ、出てくるアイデアは寿司や天ぷら、富士山など(笑)。その中に改善もありました。英語の候補もプラットフォーム以外にも色々ありましたね。石橋は自分の髪型が坊主であることから、日本語枠に「ボウズ」を推しており、ボウズ・プラットフォームというのもなぁ……、ということで、最終的には消去法で「カイゼン」と「プラットフォーム」で「カイゼン プラットフォーム」に落ち着いた次第です。

――そんな裏話があったとは(笑)。最初はなぜアメリカで起業されたのですか?

須藤 アメリカで起業しようということは最初から決めていました。理由は、当時の日本の市場環境だと、サイト改善などSaaS(サービスとしてのソフトウェア)関連企業が評価されにくい現状があったからです。株式市場でもあまり評価されないですし、資金調達やその後の成長を考えたとき、勝負するのが難しいなと。

一方のアメリカではセールスフォースはじめ、そこまで利益が出ていなくても時価総額6兆円といったようなSaaS企業が普通に存在していました。僕は起業するなら大きな勝負をしたかったので、創業の地にアメリカを選びました。

――今年夏に日本に本社機能を移され、日本の会社になった理由は?

須藤 実際に事業をやってみて、ソフトウェアよりもグロースハッカーをつないでいくマーケットプレイスのほうがはるかに価値があると気づき、それならアメリカじゃなくてもいいなということで、日本の会社を親会社に再編しました。

「いつかは日本で」などとはまったく考えていませんでしたが、ちょうど今後の当社のビジネス構成含め、どうしようか考えていた時期でもあり、構成を変えるなら大きくなる前に変えないといろいろ大変なので、今年変えることに決めました。とはいえ、もともとアメリカ本社よりも日本支店のほうがずっと大きかったのですが。僕も立ち上げて落ち着いてからは、基本的に日本にいましたので、生活などは大きく変わりません。

――話は戻りますが、アメリカで起業するのは大変ではなかったですか? 英語がお得意だったのでしょうか。

須藤 大変でした!(笑) 英語は全然できなかったので、ネットで検索したり、向こうで起業している知り合いなどにフェイスブックで連絡したり。そうして方法を教えてもらったり、人を紹介してもらったりしながら、銀行口座を開設するところから始めました。

――英語が苦手だったとなると、資金調達などは困りませんでしたか?

須藤 それは練習すればいいので。とにかく練習して行きました。アメリカでは、時間をもらってプレゼンに行っても、つまらなければ5分で「はい、ありがとう、さようなら」です。
これが当たり前で、私も何度も体験しました。ただ、言葉もおぼつかない外国人のプレゼンでも、アメリカでは聞いてもらえます。アメリカは外国から来た人が大勢いる国だから、もしかするとそこにいいアイデアがあるかもしれないと考え、とりあえず聞いてくれる人は多いのです。その代わり、「もう帰っていいよ」も早い、と。

僕は日本で60~70人くらい、アメリカで30人くらい、合計100人あまりの投資家にプレゼンしましたが、投資家の判断基準は常に「興味があるかどうか」で、英語だから伝わらないとか、ビジネスプランについて否定されるようなことはなかったです。

――では、興味を持ってくれた人はどんなところに魅力を感じたのでしょうか。

須藤 やはり「いろいろな人の力を借りる」というアイデアですね。

――グロースハッカーという概念自体は、既にアメリカにあったのでしょうか。

須藤 はい。アメリカにはグロースハッカーという概念はありました。でも、グロースハッカーという肩書きで専門家として働いている人はいても、グロースハッカーのスキルやノウハウが「オンラインを通じて提供される」なんていうことはありませんでした。
さらに、グロースハッカーの仕事をする人たちが必ずしもサイト改善を本業にしておらず、スキルやノウハウを持った人なら専業主婦でもその能力を提供できる、というのも新鮮に受け止められました。

次のページ
リクルートの誘いを秒速で断る青年との出会い >

著者紹介

須藤憲司(すどう・けんじ)

[株]Kaizen Platform代表取締役

1980年、福島県生まれ。2003年に早稲田大学を卒業後、(株)リクルート入社。マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、アドオプティマイゼーション推進室を立ち上げる。(株)リクルートマーケティングパートナーズにてリクルート史上最年少の執行役員を務めたのち、リクルートを退社し、13年3月にKAIZEN platform Inc.を米国で創業。17年7月には本社機能を日本へ移転、社名を(株)Kaizen Platformと改めた。国内での需要増加にともない、事業のさらなる拡充を図る。

THE21 購入

2024年5月号

THE21 2024年5月号

発売日:2024年04月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

日中間に、インターネットで橋をかける!

【連載 経営トップの挑戦】第24回 翁 永飆

ラクスル代表が語る「競争しなくても勝てる方法」【前編】

【連載 経営トップの挑戦】第23回 松本恭攝 ラクスル[株]代表取締役

ラクスル代表が語る「競争しなくても勝てる方法」【後編】

【連載 経営トップの挑戦】第23回 松本恭攝 ラクスル[株]代表取締役

後払い決済のパイオニア企業は、組織もユニークだった

柴田 紳(ネットプロテクションズ代表取締役社長)

医療×ITで、「納得できる医療」の実現をめざす

瀧口浩平(メドレー代表取締役社長)

女性の挑戦機会を増やし、日本の課題を解決する!

松本洋介(LiB代表)

<連載>経営トップの挑戦

×