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真夜中の大事故。そのとき、ウガンダの人たちは……?(ウガンダ3)

2019年03月18日 公開
2021年08月23日 更新

<連載>世界の「残念な」ビジネスマンたち(43)石澤義裕(デザイナー)

警察官は名作家だった!?

被害届けは、事情聴取から始まりました。

と言っても事故った瞬間に失神し、目が覚めても茫然自失だったので、基本的に記憶にございません。

後出し請求の親切ドライバーが、目撃者として警察官の質問に答えます。

15分ほど濃密な質疑応答が繰り返され、警察官は次第に眉間にシワを寄せ、ときおりオーマイガー!と哀れみに満ちた感嘆符をこぼし、親身になって取材をしてくれましたが、目頭を熱くしながらも一切メモをとらず。

やがてコピー機からA4サイズの紙を取り出し、ボールペンを手にして1行目に力強く書いたのは

Report of Victim

しばし天井を仰いでから、椅子の位置を整え、ボールペンを握り直してひと呼吸。

天命を授かったかのように、おもむろに文字を書き始めました。

はじめはゆっくりと丁寧に、ピアニッシモ。

だんだん筆が乗ってきて、アンダンテ。

用紙の下まで文字を埋め尽くしたら、用紙をひっくり返して取り憑かれたようにアレグロ。

一度も筆を休ませることなく、ひと文字も書き損じることもなく、一気に書き上げたのです。

どんだけの作家ぶりですか!?

満足げに顔を紅潮させた警察官は、2行分ほど残した余白を指さし

「内容を確認して、間違いなければここにサインを」

字数まで計算通りです。

 

達筆すぎて手を付けられない書類

あれだけ芸術的なライブ執筆を見せられたら、先生、恐れ多くて赤字なんて入れられません。

というか、達筆すぎて読めないのです。

正直、英語かどうかすら判然としないほどに進化した書体に苦慮していたら、

「ここ、間違ってますね」

ドライバーが指摘します。

どこが?

ここが。

どんなふうに?

こんなふうに。

だから、メモっとけ!って言ったのに(日本語でツッコミます)。

警察官はボールペンを握ったものの、端から端までびっしりと文字に埋まった原稿。

ひと文字も書き足す隙間がありません。

ボールペンを2度3度と行間に立てますが、どうにもならないのです。

ということは、初めから書き直さなければならないのか!

と悟った警察官。態度が変わります。

間違っていないと言い張ってみたり、大勢に影響はないとか、書類というものは間違いのあるものだとか、並べた御託はすべてドライバーに論破されます。

屁理屈が通じないとわかったら、ドライバーを叱りつけたり怒鳴りつけたり。

肩に手をまわして、なだめすかしたり拗ねてみたり、おどけたり。

万策尽きたら、そんなに君たちが頑固とは知らなかったと捨て台詞を吐いて、開き直りました。

修正しなかったのです。

隣の部屋でボスの印鑑とサインを頂戴して、終了~。

Yukoの怪我に涙ぐむほど情のある人なんですが、仕事となると鬼のように頑固でした。

たとえ間違っていても。

 

ちなみにYukoの傷は癒えましたが、複視という後遺症が残りました。

モノが二重に見えます。

帰国して、治療に専念します。


1日中、ぼんやりしている無職の青年たち。「日本に連れて行ってくれ!」国境がなくなったら、迎えにくるね。

著者紹介

石澤義裕(いしざわ・よしひろ)

デザイナー

1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。新宿にてデザイナーとして活動後、2005年4月より夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。

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