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優れた医者や弁護士は使っている!? 問題解決に必要な「3つのS」

2021年03月03日 公開
2023年02月21日 更新

長田英知(良品計画執行役員)

問題解決

「問題解決」という新しい言語を使いこなすための3つのステップ

「問題可決の3つのS」をそれぞれ独立した概念として理解し、活用している間はきちんと使いこなせているとは言えず、「3つのS」が有機的に融合した形でシームレスに、無意識に活用できるようにならなくてはなりません。

では、「問題解決の3つのS」に習熟し、ビジネスにおいて無意識に活用できる状態とはどのようなものなのでしょうか。私がこの状況を説明する際に一番しっくりくるのは、「問題解決」という新しい言語をしゃべれるようになる感覚です。

「3つのS」を概念として理解している初期の段階と、血肉として自分のものとしている段階をたとえて言うならば、第二外国語を学びはじめた最初の段階と、母国語と同程度に操れるようになったバイリンガルの段階ぐらいの違いがあります。

ちなみに言語によって脳の使い方が異なるという興味深い研究があります。バイリンガルの人が第二外国語を話すとき、じつは母国語を話しているときと異なった脳の使い方をしているというのです。

これについては2015年に『Psychological Science』誌に発表された興味深い研究があります。

被験者に自動車の方向へと歩いている人物の動画を見せ、その様子を言葉で描写させる実験で、英語を母国語とする人の多くは「人が歩いている」動画だと答えたのに対して、ドイツ語を母国語とする人の多くは「自動車に向かって歩いている」動画だと答えるという結果が出ました。

話す言語によって物事の捉え方に違いが出たのです。ここで面白いのが、英語もドイツ語も流暢に話す人々に実験を受けてもらったところ、被験者がその瞬間に使っていた言語によって答えが変わることが明らかになったのです。

ビジネスで「問題解決の言語」がしゃべれるようになっても、私たちがビジネスで使う言語が日本語から別の言語に変わるわけではもちろんありません。

しかし同じ日本語を使っていたとしても、私たちのプライベートでのしゃべり方と、お客様に接するときのしゃべり方は大きく異なるという経験は皆さんもされていると思います。

そしてビジネスでお客様としゃべるときは、日常生活とは異なる前提やロジックで物事を見ることが多いのではないでしょうか。皆さんも日常生活なら腹を立てるようなことも、ビジネスでお客様を前にするときは感情を抑えるといった経験をされたことがあるでしょう。

私たちがプライベートとビジネスで脳を切り替えるように、一般的なビジネスパーソンと、問題解決の思考を身につけたビジネスパーソンでは、そもそもの脳の使い方が異なってきます。

そして問題解決のための脳の使い方を身につけたとき、普段の思考では見えなかった問題を解決する糸口が自然と現れるようになるのです。

 

問題解決のスキルは「形式知」「暗黙知」「実践知」とレベルアップしていく

問題解決のスキルを身につける際もまた、バイリンガルになるときの習熟の流れと非常に似通っています。

バイリンガルになろうとして英語を学習するとき、一般的にはまず「文法」を理解して、「単語」を覚えることからはじまります。しかし、ひと通り「文法」を理解して一定数の「単語」を覚えたとしても、その知識だけでは、単語を1つずつ日本語に翻訳して、その結果から文章の意味を類推するぐらいで精一杯なのではないでしょうか。

また、ヒアリングでは一部の言葉は聞き取れたとしても、それを脳内で日本語に変換している間に分からなくなってしまう状態でしょう。このような読解レベルを「ステージA」とします。

この「ステージA」の状態から、地道に努力を重ねていくと、やがて単語の意味を1つひとつ翻訳したり文法的な構造を考えたりしなくても、意味をなんとなく把握できるようになります。英語を英語のまま理解できるようになるのです。このような状態を「ステージB」と定義します。

しかし「ステージB」の段階に到達して、相手の言っていることは理解できるようになったとしても、そこから自分の伝えたいことを思いのままにしゃべれるようになるには、まだもう少しの努力が必要です。

すなわち感覚的に理解できるようになったことを、今度は言葉で表せるようになるための訓練が必要となるのです。

この訓練を経て、英語のままで内容を理解し、英語のままで思考し、相手に内容を伝えることができるようになったとき、はじめてその人は英語を使えるようになったと言えます。この状態を「ステージC」とします。

ビジネスにおける問題解決能力もまた、この「ステージA」~「ステージB」~「ステージC」という段階を経てレベルアップしていきます。なお、この流れは野中郁次郎氏が組織における知識創造の3つの知識のあり方を論じた、「形式知」「暗黙知」「実践知」の概念とも重なります。

まず「ステージA」の段階は、ビジネス上の問題に自分の知識やフレームワーク、すなわち「形式知」を断片的に当てはめて、問題を読解しようとしている状態だと言えます。

しかし脳や肺や胃や腸を切り出して、この総和が人間であると言っても違和感があるように、ビジネスの本当の問題を読み解くためには、切り分けた課題の有機的な相互関係を読み解くことが必要となります。

「ステージB」では問題をその総体としてとらえ、切り分けた課題の相互関係に基づき、適切な取り組みの判断を下せる状態が個人の中で出来上がった、いわば「暗黙知」を身につけた状態にあります。

しかし、この状態では自分のスキルになっていることを、うまく他人に伝えることができていません。よく職人の世界で「弟子は技術を目で見て盗め」と言いますが、それでは弟子に技術を伝えるのにとても時間がかかるわけです。

それが「ステージC」まで上がると、自分の獲得した「暗黙知」を人に伝達できる状態となります。あなただけの「暗黙知」が皆に共有できる「実践知」として提供できるようになることで、はじめて問題解決のための全体的なスキルが身につくのです。

【著者紹介】長田英知(ながた・ひでとも)
東京大学法学部卒業。地方議員を経て、IBMビジネスコンサルティングサービス、PwC等で政府・自治体向けコンサルティングに従事。2016年、Airbnb Japanに入社。日本におけるホームシェア事業の立上げを担う。2022年4月、良品計画に入社。同年9月よりソーシャルグッド事業部担当執行役員に就任。社外役職として、グッドデザイン賞審査委員(2018~2021)、京都芸術大学客員教授(2019~)等。著書に『たいていのことは100日あれば、うまくいく』(PHP研究所)、『ワ―ケーションの教科書 創造性と生産性を最大化する「新しい働き方」』(KADOKAWA)などがある。

 

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