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「パソコンのメーカーが対応できないトラブルが起きたとき、頼れるサービスがある」

2016年02月12日 公開
2016年11月11日 更新

家喜信行(日本PCサービス社長)

正社員だから教育ができる

 

 夏目 400社以上とは快挙ですね。どんな部分が評価されたのですか?

 家喜 当社のスタッフは全員、社員です。ここが大きく評価されました。

 夏目 競合は社員ではないのですか?

 家喜 ええ。じつは私が起業する前から、顧客宅へ伺い、パソコンやインターネットの接続を実施する企業は存在したのです。しかし、私はこれらの企業が得意な分野には、あえて入りませんでした。これら企業は、メーカーさんや、インターネットのプロバイダーさんからお金をもらって顧客宅へ行きます。すると、決められた作業以外はできません。私は、企業がサポートできる範囲以外で、困っている個人の方をサポートしたかった。そこに、新規性と市場があると信じていたのです。また、他社のスタッフは街のパソコン教室の先生や転職活動中のプログラマーなど、契約している個人です。企業はこれらの方と連絡を取り合い「いつ、どこで、こんな仕事があるけど行きませんか?」とやりとりをしています。

 私は、この逆を行きました。接客にはクレームが付きものです。しかし正社員であれば、入れ替わりが少ないため、接客マナーや、サポート技術も教育ができます。

 夏目 どんなクレームがあるのですか?

 家喜 まず「パソコンが直らなかった」というものです。しかし当社では「このトラブルはこうすれば直った」といった技術が蓄積されていくため、お客さまのトラブルの97%を解決できています。残りは、通信会社の回線障害や、商品が古くメーカーに部品がない、といった当社ではどうしようもないトラブルばかりです。

 意外なことに、これより多いのが、接客態度に関するクレームです。最初は「スタッフが汗をかいていて床に垂れた」とか「パソコンを扱う手が汚れていた」といったクレームもいただきました。しかし、当社は継続的にクレームを減らしつづけました。5日に1度は社員研修を行ないます。そして、お客さま宅へ上がるときは「失礼します」といって使い捨てスリッパをビニールから取り出して履きますし、荷物を置くときも、布を敷いてから床に置きます。こうしてサービスの質を向上させられるのは、正社員を雇用しているからこそです。

 夏目 他社さんで、一時雇用のスタッフが顧客の女性にセクハラをして、元請けの大企業が大騒ぎになった例もありましたね。

 家喜 当社は、そのようなとんでもないトラブルはもちろん、クレームもいただきにくい体質です。料金も、同様のサービスを行なっている企業と変わらず、平均1万~2万円台です。このためリピーターが増え、それにつれて元請けの大企業も利益が増えるところが高く評価されました。

 

われわれがやらずに誰がやるというのか

 

 夏目 事業を続けるなかで、他の事業家の方にアドバイスをもらったことなどありますか?

 家喜 先述した「生活救急車」サービスを行なっているジャパンベストレスキューシステムの榊原社長にいわれたことを、いまも強く記憶しています。当時、同様のサービスを行なっている企業からアプローチを受けていたそうなんです。なのになぜ私たちのような、当時は無名だった企業を選んでくださったのか、聞いたことがあるのです。榊原社長は「事務所がきれいで、接客対応もよかった。気のよい人たちが頑張っている印象を受けた」と教えてくれました。逆に、もっと大きな会社もあったらしいのですが、「社長が金のネクタイピンをして、腕時計もギラギラで……」。実際にその企業はパソコン修理事業から撤退しました。

 夏目 示唆に富んだエピソードですね。

 家喜 ところが、榊原社長にこの話をしたら「そうだったっけ? 覚えてない」とおっしゃるんです(笑)。私は、ほかにもたくさん覚えていることがあります。たとえば「慌てなくていい」といわれたこと。他の企業を見ていると、ゲームなどで大きな利益を出し、一気に伸びるところがあります。しかし「それはそういうことが得意な人だからできること。キミにできるのは、地道に、一つずつ提携先を増やし、一人ずつお客さまの信頼を獲得することだよ」と……。榊原社長は、目に見えないことを懸命に見ようとなさっている方なのだと思います。

 夏目 ご恩返しできていますね。

 家喜 まだまだです。それに私は、榊原社長はもちろん、この世の中に恩返しをしていきたいのです。そこで、東京や大阪の若手起業家を支援し、メンター(後進の育成をする先輩)になっています。

 夏目 将来は、どのような事業に成長させていきたいですか?

 家喜 いま、直営店は全国に13店舗、加盟店さんが228店舗あります。しかしまだまだで、いま海外はシンガポールにだけ進出していますが、将来は世界に進出していきたい、と思っています。また、ヤフーさんやマイクロソフトさんやアップルさんにも認められる企業になって、当社のサービスを推してほしい。困っている人たちは、世界中にいます。大きな企業さんができない、お客さまのご自宅へ伺い、ご要望を聞き、一つ一つ対応する、という泥くさい部分を、私たち日本PCサービスにお任せいただきたいのです。

 夏目 壮大ですね。

 家喜 でも、われわれがやらなければ、誰がやるのでしょう。ITによって可能なことは、ますます増えていきます。たとえば少子高齢化により、介護されるべき人は増え、一方で、介護をする人たちは、すでに足りていない状況です。そこで在宅介護、在宅医療が増えています。ご年配の方はタブレットを使ってご自分の体の情報を医師に送り、かかりつけのお医者さんは、状況が悪い患者さんから順番に入院していただく、といったサービスが必要になるかもしれません。ところが、電子機器の設定ができない方が多いのです。また、ご年配の方は歩くのが大変で、重い荷物を持てないため、インターネットスーパーで注文し、商品を届けてもらうサービスは親和性が高い。ところが、みんなタブレットの使い方を覚えることから始めなければなりません。

 もちろん、各地域でボランティアの方が無料のパソコン教室を行なっている場合があります。また、医療機関の看護師さんやネットスーパーの方も、使い方を聞けば、最初は教えてくれるでしょう。しかし私たちのアンケートには、ご年配の方たちの心境が滲み出ています。「何回も何回も同じことを聞いても、優しく教えてくれるからありがたい」といった書き込みがあるのです。

 夏目 株式市場でも、IoT(モノのインターネット)関連株として大化けを期待されています。

 家喜 当社は現在、家電の修理、さらには太陽光発電パネルの販売なども手掛けており、将来的には、ホームロボットの設定や修理も視野に入れています。たとえばペッパーというロボットが人気を博していて、ご年配の方のなかには、定年退職後にご購入される方もいるのですが、じつは最初の設定が非常に難しい。Wi-Fiに接続し、さまざまなプログラムをダウンロードしなければいけないんです。もちろん、機械としては素晴らしいのですが、少々ミスマッチの感があります。しかし、われわれがいれば、どなたにでも楽しく使っていただけるはずです。ITの進化の影にある、こうしたつらい点をなくしていきたいですね。それが、私の夢です。

著者紹介

家喜信行(いえきのぶゆき)

日本PCサービス社長

1976年、兵庫県生まれ。桃山学院大学卒業後、ITパッケージソフトの販売会社に就職。トップセールスを約2年間続ける。2003年に株式会社マネージメントクリエイティブを設立し、代表取締役社長に就任。08年に日本PCサービス株式会社に改称。14年11月名古屋セントレックス証券取引所に上場。サポートなどの問い合わせ番号は、フリーダイヤル0800−555−0049

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)

ジャーナリスト

1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店に入社。その後、雑誌記者に。小学館『DIME』の「ヒット商品開発秘話 UN.DON.COM」や講談社『週刊現代』の「社長の風景」などを連載。
著書に『ニッポン「もの物語」』(講談社)『大停電(ブラックアウト)を回避せよ!』(PHP研究所)などがある。

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