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授業に出れず、単位を落とす学生が急増!学習塾や小売業の「ブラックバイト」に注意

2016年04月20日 公開

坂倉昇平(『POSSE』編集長、ブラックバイトユニオン事務局長)

ブラックバイトが教育を食い物にする

もはや「バイト感覚」は「死語」

 

 ーー2014年8月に、NPO法人POSSEのボランティアスタッフを中心に「ブラックバイトユニオン」という労働組合が発足しました。坂倉さんは事務局長として、全国からの学生のアルバイトの労働相談を受け、団体交渉などによる解決に取り組まれています。

 初めに、「ブラックバイト」とは具体的にどういったものなのかを教えてください。

 坂倉 この問題を提唱し始めた中京大学の大内裕和教授によれば「学生が学業に支障を来すような過重な責任や業務を負わされてしまうアルバイト」のこと。学業に配慮しない働かせ方のせいで、大学生や高校生、専門学校生が勉強時間を削られたり、授業やテストに出席できなかったりして、成績が下がる、単位を落とす、酷い場合は留年するなどの被害に遭っています。ここ約10年で急増しており、社会の担い手である若者を使い潰す働き方を強いるという点で、正社員を酷使するブラック企業と共通しています。

 ーー学生からは主にどういった相談を受けますか。

 坂倉 最も多いのは「バイトを休めない、辞めさせてもらえない」というものです。

「試験勉強をしたいから、勤務回数を減らしてほしい」と店長に相談したところ、まったく無視。仕方なく辞めようとすると、「おまえは無責任な奴だ。仕事をなめるな」「授業とバイトのどっちが重要だと思っているんだ」などと罵声を浴びせられる。責任感を煽られてバイトを休むことができなくなった結果、学生は勉強時間を十分に確保できず、単位を落としてしまう。高校生でも同様に、バイトを休ませてもらえないために勉強できず、志望校の変更を余儀なくされたケースもあります。

 ーー学生アルバイトを社会人と同一視するなど、滅茶苦茶な論理ですね。学生はそんな劣悪な職場で働き続けて、なぜ辞められないのでしょうか。

 坂倉 理由の一つに挙げられるのが、学生側の経済的な事情です。保護者の所得減に伴い、学生への仕送り額が減少していることや、大学の学費が高騰していることも影響しています。

 しかし、経済的に困っていなくても、辞められない学生は多い。もう一つの要因は、学生を雇用の中核に据える「基幹労働化」の浸透です。

 かつてのサービス業の職場では、基幹的な労働を担う正規社員が複数雇用されていました。ただ、アルバイトの役割はあくまで補助で、責任もそれほど重くなかった。ところが、この10~20年のあいだ、とくにサービス業において、手っ取り早く利益を上げるために、労働者を低コストにとどめたまま長時間働かせて業務量を増やすという経営戦略が広がってきました。正規社員が担っていた責任ある仕事を低賃金のアルバイトに任せることで、職場を回すようになってしまったのです。

 経済学の一般的な考え方では、労働条件が悪い企業では労働者が退職し、かつ新規の応募が来なくなるため、人手不足に陥ることになります。そこで労働者を集めるために労働条件を改善させると考えられています。

 ところが現実には、ブラックバイトの小売店や飲食店は、賃金を増やすのではなく、学生アルバイト1人当たりの仕事量を途方もなく増やし、その責任感を利用して彼らを職場に縛り付けることで、低コストのまま、学生を使い潰すことで人手不足を「解決」しています。

 深夜の時間帯に、1人で店舗を回す「ワンオペレーション」が常態化している店舗も珍しくありません。アルバイトたちのまとめ役ともいえるバイトリーダーに任命された場合、彼らの日程を調整しての勤務シフトを作成しなくてはなりません。店舗の鍵の管理や金庫管理まで請け負わされることも珍しくない。

 ギリギリの人員で過剰な責任を負わされて店を回しているなかで、店長に責任感を説かれれば、学生も「俺が辞めたらこの店は回らない」と、いつまでもバイトを続けてしまうようになるのです。

 最近「学生アルバイトの戦力化」を堂々と掲げる企業もありますが、それは裏を返せばブラックバイトの危険を抱えているということ。日本のサービス業は、学生アルバイトの都合を無視し、彼らに低賃金で重い仕事を任せ、手っ取り早く利益を得るビジネスモデルに陥っているのです。学生アルバイトたちは「学生だから」と甘くみてもらえないばかりか、学生生活を軽視され、進路や将来に対する配慮すらされない。「バイト感覚」なんて言葉は「死語」です。

 このようにブラックバイトは、「学生がわがままになった」とか「たまたま勤めたバイト先の店長が酷かった」という問題ではなく、サービス業全体に蔓延する構造的な問題なのです。

 ーー最低賃金を上げ、非正規雇用者の労働環境を守っていくという最近の政策や時流にも逆行していますね。

 坂倉 彼らは未来ある若者を社会に送り出す責任などまったく考えていない。自分の目先の利益のためなら、社会の「資源」である若者を使い潰し、日本社会の存続など一顧だにしない。これがブラックバイトの病理なのです。

 

個別指導塾業界の悪習

 

 ーーブラックバイトを象徴する業種にはどのようなものがありますか。

 坂倉 代表的なのが、居酒屋やファミリーレストランといった飲食業、コンビニエンスストアやスーパー、アパレルなどの小売業です。

 そして、昨年から私たちへの相談が急増しているのが個別指導塾。多いときは月に100件の相談や問い合わせがあります。個別指導塾はこの10年ほどで急成長し、いまなお増え続けています。

 個別指導塾の特徴は、一コマ数十分程度の授業に対してのみ賃金を支払う違法な「コマ給」の給与体系にあります。この業界の悪習ともいえるコマ給がブラックバイト問題を引き起こす元凶となっています。というのも、授業に対してのみ賃金を払うということは、授業以外の時間は無制限・無給で働かせることができるということです。そのため、賃金コストが上昇する心配もなく、責任や仕事を学生に負わせ放題にできるのです。個別指導塾は一人ひとりの子どものニーズに合わせた教育をうたっており、そのために授業後の授業報告書の作成業務が必須ですし、塾によっては、子どもの成績や進路を検討するミーティングがあることもあります。さながら学校の先生です。しかしながら、こうした授業時間外の給料はほとんど支払われません。

 一コマおよそ90分の授業に対して支払われる賃金は1500円程度で、一見高く見えるのですが、時給に直すと1000円前後。さらに不払いの時間を含めて試算すると、都道府県が定める最低賃金を下回ってしまう。

 ーー深刻な問題ですね。塾講師のバイトは人気が高いイメージがありますが、いまやブラックバイト化している。

 坂倉 昔は塾講師バイトといえば、広い教室で数十名の生徒に対して講義をする集団指導型しかなく、講師に採用されるのは高学歴の大学生ばかりでした。そのぶん給料も高かったので、授業の準備に充てる時間が不払いでも、不満を抱く学生はあまりいなかったのです。授業が終わったらすぐに帰れますしね。

 しかし個別指導塾の興隆とともに、学歴を問わずどんな学生でも講師として採用されるようになりました。個別指導塾は、アルバイトの講師が一コマで1~3人の生徒を受け持つケースが多いのですが、生徒にプリントを解かせ、質問を受けて適当に答えるだけでも、授業は成り立ってしまう。多くの経営者にあるのは、子どもに大学生をあてがっておけば、利益が発生するという安易な思考です。

 ーーまるで子守り同然ですね。

 坂倉 教育に対する経験も関心もない経営者が異業種から参入し、教室長と学生バイトに現場を丸投げして、教育のクオリティも講師の労働環境も杜撰になっているケースはうんざりするほど目にしました。大手の個別指導塾であっても、一人の講師が5、6人の子どもをまとめて押し付けられている教室もあり、もはや個別指導の体をなしていません。講師に一人でも多くの生徒を詰め込むことで利益を上げようとしているわけです。

 その結果、過酷な労働環境に置かれて学業に支障を来してしまう学生アルバイトが急増しているのは、小売業や飲食店のケースと何ら変わりません。もともと子どもに教えることが好きで、将来教職員になるために塾講師のバイトを始めたのに、担当生徒数が増えすぎて単位を落としてしまい教職員になれなかった学生もいます。

 週6日以上働き、大学のない日は朝8時半出勤で夜24時過ぎまで酷使された結果、精神疾患で大学を休学して病院に通っている学生の相談も受けました。

 個別指導塾では、他の業種に比べても仕事に思い入れのある真面目な学生アルバイトが多いですから、授業以外の業務がタダ働きでも、生徒のためにやれといわれれば頑張って働いてしまいます。きつくて辞めようとすると教室長に「生徒を見捨てるのか」と責められる。ブラックバイトはこの国の教育を食い物にしているのです。

 

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iyashi

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