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山崎繭加 『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』

2016年12月09日 公開

山崎繭加(元ハーバード・ビジネス・スクール<HBS>日本リサーチセンター アシスタント・ディレクター)

HBSが行なった教育改革

 ――ハーバード・ビジネス・スクール(以下、HBS)はMBA(経営学修士)教育を行なう世界トップのビジネススクールとして知られていますが、2010年、インド出身のニティン・ノーリア氏が10代目学長になったのを機に、教育カリキュラムの改革を行なったそうですね。どのような背景があるのでしょうか。

 山崎 世界最古のビジネススクールの一つであるHBSでは、2008年に創立100周年を迎えた際、今後の百年もトップスクールであり続けるために必要な改革について議論が行なわれました。ちょうど2008年は世界金融危機が起こった年でもあり、ウォール街に多数の人材を送り出していたHBSは、「自分たちの教育は正しかったのか」という深刻な自省に迫られました。ニティン学長による改革が加速した背景には、こうした経緯がありました。

 ――具体的にどのような改革が行なわれたのですか。

 山崎 これまでのHBSの授業の特徴は、「ケース・メソッド」といわれる教授法にありました。ある組織が抱える課題について記されたケース(事例)を基に、教授のファシリテーションの下、学生たちが互いに議論をして学んでいくというものです。じつに効果的な教授法であるとはいえ、「知識を増やすこと(knowing)」に偏った教育になっているのではないか、という反省も生まれたのです。

 そこで今後は、よりスキルや能力の開発につながるような「実践(doing)の場」を増やすことに加えて、「自分が何者であるか(being)を知る教育」を行なっていかなければならない、という結論になりました。ニティン学長が強調してきたのは、全人格的な教育の必要性です。これまでは頭ばかり動かしていたけれども、実際に体も動かし、心も豊かにするようなバランスの取れた教育をしていくということです。日本の武道の世界で唱えられてきた「心・技・体」の概念に近いのかもしれません。

 ――knowingに加え、doing、beingの力を鍛えるために、どんな方法が採られたのですか。

 山崎 2011年、HBSではこれまでの「ケース・メソッド」に加え、教室を出て自ら経験するなかで学ぶという「フィールド・メソッド」が導入されました。こうした流れと、2011年の東日本大震災が重なって生まれたのが「ジャパンIXP(Immersion Experience Program:どっぷり浸かって経験して学ぶプログラム)」です。東京と東北に1週間ずつ滞在して学ぶプログラムであり、担当教授はHBS唯一の日本人教授である竹内弘高氏です。

 ――本書『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』は、まさにそのジャパンIXPの歩みを記録した歴史書であるといえます。2012年の開始当初は、被災地の復旧について貢献する企業に関するケースを作成するチームプロジェクトと、全員でボランティア活動を行なう2本柱で成り立っていたのが、第4回(2015年)から、東北の企業にコンサルティング(経営指南)を行なうプロジェクトに切り替わっていったそうですね。

 山崎 震災翌年には、まだ壮絶な被災の現場が残っていましたが、年を経るごとに体を動かすボランティアが少なくなっていく事情がありました。また、せっかく企業を訪問してケースをまとめても、それを出版するころには課題の変化によって時代遅れになっていることもありました。そうした活動よりも、HBSの学生たちの力を直接、還元するほうが被災地の企業の役に立てると考えたのです。震災から3、4年経つと、受け入れる企業のほうも、未来につながるようなコンサルティングを学生たちに求めるようになってきた、という側面もありました。

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著者紹介

山崎繭加(やまざき・まゆか)

元ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)日本リサーチセンター アシスタント・ディレクター

東京大学経済学部、ジョージタウン大学国際関係大学院卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニー、東京大学先端科学研究センターを経て、2006年よりHBS日本リサーチセンター勤務。主にHBSで使用される日本の企業・経済に関するケース作成、東北を学びの場とするHBSの2年生向け選択科目ジャパンIXPの企画・運営に従事。また、特任教授として東京大学医学部にてグローバルヘルス・アントレプレナーシップ・プログラムの運営・教育に関与。

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