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石平 「習一強」の対日政策とは

2017年11月09日 公開
2023年01月11日 更新

石平(評論家/拓殖大学客員教授)

アジア諸国を歴訪中の米トランプ大統領は11月8日から中国を訪問し、習近平国家主席から厚遇を受けた。北朝鮮問題をめぐる議論に注目が集まる一方、共産党大会を終えて権力基盤を固めた習主席は、今後どのような対日政策を行なうのか。石平氏が分析する。


対日戦争にまつわる三つの「国家記念日」

 中国の対日政策を解くカギの1つは、2014年に習政権の下で中国が日中戦争にまつわる3つの「国家記念日」を制定したことにある。

 3つの「国家記念日」とは、7月7日の「抗日戦争勃発記念日」、9月3日の「抗日戦争勝利記念日」、そして12月13日の「南京大虐殺犠牲者追悼日」の3つである。2014年2月開催の全国人民代表大会(全人代)は、この3つの記念日を「国家記念日」と定める法案を採択した。いずれも対日戦争にまつわる記念日である。

 じつは中国でも、法律で外国との歴史を国家記念日と定めるのは異例のことである。その点、3つの記念日は全部日本との戦争に関するものであり、まさに異常事態である。近代史上、イギリスもフランスも中国に戦争を仕掛けたことはあるが、中国政府はけっして、「アヘン戦争記念日」のような「国家記念日」を制定しようとはしない。「歴史問題」の矛先はすべて日本に向けられているのである。

 中国政府はこの3つの「国家記念日」を制定して以来、大規模な国家的記念行事を催して日本批判の気勢を上げ続けている。今後もこれは恒例化していくであろう。つまり、今年も来年も再来年も、そして10年後も20年後も、毎年3つの記念日が来ると、「歴史問題」で中国が日本を叩く光景が見られるのである。

 もはや日本側が謝罪するかどうかの問題ではない。たとえ日本が再度、「歴史問題」で謝罪しても、中国が上述の国家的記念日を取り消すようなことはありえない。この3つの「国家記念日」を制定した時点で、習政権は「歴史問題」を使って日本を未来永劫叩いていくことを国策として決めているはずである。

 

「準敵対国」となった日本の位置付け

 中国の国策は、習政権の進めるアジア戦略全体と当然無関係ではない。「新中華秩序」をつくり上げ、中国によるアジア支配を完遂させることは習政権の既成方針となっている。この戦略的目標を実現させるためには、邪魔となる2つの障害をまず取り除かなければならない。

 障害の1つは日米同盟である。日米同盟が強固であるかぎり、中国のアジア支配は完遂できない。

 障害のもう1つは、中国に支配されることを嫌がるアジア諸国の反抗である。事実、過去五年間、中国はベトナムやフィリピンといったアジア諸国の反抗に手を焼いてきた。

 そこで持ち出されるのが、日本との「歴史問題」なのである。太平洋戦争中の日本との「歴史問題」を持ち出して「日本がいまだに戦争の責任を反省していない」と強調することで、かつて日本と戦ったアメリカの対日不信感を増幅させることができると中国は考えている。

 同時にアジア諸国に対しては、「日本は昔アジアを侵略した」と強調することで、当の中国が推進している侵略的拡張を覆い隠し、中国という現実の脅威から目を逸らすことができると考えているのであろう。

 その結果、日米同盟に不用な亀裂が入り、アジア諸国の一部が中国の宣伝に共鳴して「反中」から「反日」へと傾けば、それこそ中国の期待どおりの展開となるのではないか。

 習近平政権の進めるアジア戦略において、日本はもはや友好国家でもなければ、連携する相手でもないことは明々白々であろう。アジア支配戦略の推進に際し、日本はむしろ孤立化させたり、排除すべきような「準敵対国」の位置付けとなっている。

「準敵対国」だからこそ、習政権は3つの「国家記念日」を制定して日本叩きを永久の国策に定めた。また「準敵対国」だからこそ、習氏は国家主席として日本の土を踏むことを極力避けているのである。

(本記事は『Voice』2017年12月号、石平氏の「『習一強』の対日政策」を一部、抜粋したものです。全文は11月10日発売の12月号をご覧ください)

著者紹介

石平(せき・へい)

評論家

1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞を受賞。近著に、『なぜ中韓はいつまでも日本のようになれないのか』(KADOKAWA)などがある。

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