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全国的な京アニ支援を支えた「聖地巡礼」の文化

2019年09月16日 公開
2022年03月01日 更新

伊藤弘了(映画研究者)

全国の「聖地」で見られる京アニへの思い

伊藤弘了出町桝形商店街の追悼メッセージ

 

ここでは『らき☆すた』の聖地とその取り組みについて具体的に紹介したが、京アニ支援の動きはほかの聖地でも見られる。

主だったところを挙げると、兵庫県西宮市(『涼宮ハルヒの憂鬱』)、滋賀県豊郷町の豊郷小学校旧校舎群(『けいおん!』)、滋賀県日野町の旧鎌掛小学校(『中二病でも恋がしたい!』)、岐阜県大垣市(『聲の形』)、京都府宇治市(『響け!ユーフォニアム』)、鳥取県岩美町(『Free!』)、静岡県掛川市の加茂荘花鳥園(『氷菓』)、奈良県橿原市(『境界の彼方』)、兵庫県香住町観光協会(『AIR』)などが追悼コメントを発表するとともに、献花台や募金箱を設置している(※3)。

『たまこまーけっと』の聖地として知られる出町桝形商店街(京都市上京区)も追悼コメントを出しており、商店街に属す出町座という映画館(京アニ作品の上映も行なっている。私は上映最終日に立ち見で『リズと青い鳥』を鑑賞した)には募金箱が設置されている。

京アニとゆかりのある京都文化博物館では、募金箱の設置に加えて、「京アニの優れたアニメーターたちが手がけた作品のことを知っていただければ」という思いから、取材協力した京アニ作品のポスター15枚の展示を行なっている(閲覧無料、9月以降は未定)。

伊藤弘了京都文化博物館のポスター展示

 

ちなみに、京アニ制作の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』には、辰野金吾が設計した京都文化博物館別館(旧日本銀行京都支店)をモデルにしたと思しき建物が登場する。

8月22日には、その別館ホールで催された音楽イベントに、『響け!ユーフォニアム2』やそのスピンオフ的な位置付けの映画『リズと青い鳥』に「吹奏楽部取材協力」とクレジットされている京都すばる高校の吹奏楽部が出演し、京アニへの思いを主題歌「サウンドスケープ」などの演奏に託した(※4)。

 

※1、石岡良治『現代アニメ「超」講義』、PLANETS、2019年、107頁。
※2、同書、108頁。
※3、京アニ作品と聖地巡礼の関係についてはすでに多くの言説が蓄積されている。ここでは、今回の放火事件を受けて観光社会学者の岡本健(『アニメ聖地巡礼の観光社会学 コンテンツツーリズムのメディア・コミュニケーション分析』[法律文化社、2018年]の著作がある)が『現代ビジネス』に寄稿したWeb記事「『本物の聖地』化した京アニの舞台…放火事件から1ヵ月後の今を見る」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66583[2019年8月18日公開])を紹介しておきたい。
※4、第101回全国高校野球選手権大会(いわゆる夏の甲子園)に京都府代表として出場した立命館宇治高校の吹奏楽部は、2回戦(対星稜)の応援の際に『響け!ユーフォニアム』の主題歌「DREAM SOLISTER」を演奏した。

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