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G20で話題になった「大阪トラック」とは何か

2019年09月12日 公開

谷口智彦(内閣官房参与)

データの流通をめぐる3つの流れ

日本ならではの提案だったことを強調しておきたい。

日本は経済規模にして世界3位、自由主義経済としていまだに単独2位であって、G20では横綱級だ。かつその技術力にはなお定評がある。新機軸を打ち出す資格に不足はないところが、まずもって重要だった。

これに加えて、日本の判断が世界の潮流に影響を与えると見てよいだけの背景事情があった。

データの流通をめぐって、世界がいま3つの流れに分かれている事情がそれである。

1つは、いわゆるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)を擁し、その利益極大化を国益と同一視する・できる立場の米国が率いる流れである。

2つ目は欧州の敷いた流れだ。欧州は、つとにEU域内でのDFFT実現に向け動き始めている。その点でこそ先進的ではあるものの、世界とのすり合わせをどう試みるかは、すべからく今後の課題としている。

そして3つ目が、国家主導のデータ管理にいそしむ中国の進める流れだ。

BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)と呼ばれるIT企業群の情報を国が一元的に管理し、ビッグデータの動きをくまなく捕捉しているとされる。しかもそれを抱え込み、他国との自由なデータ流通を許そうとしない。

日本の立場は、察するかぎり、大西洋の中間地点といったところだろうか。すなわち今後流れがどちらに向かうにせよ、日本の態度は鍵を握るわけである。

データはネットワークを流れる。そしてネットワークとは、新規参加者が1人増えると、元からいるメンバーに「棚ボタ」的便益が加わる「外部性」をもつ。

たとえば3人のあいだに電話ネットワークを敷くと回線は3本だが、1人参加者が増えるだけで回線は6本に増える。既存メンバーはいながらにして、倍の便益を「外から」与えられた形になる。外部性は逆にも働き、1人減るだけで、不釣り合いなまでの損失が他に加わる。

この計算を世界の人口に当てはめると、中国が加わると加わらないとで、生まれる便益の差が巨大になることが容易にわかる。DFFTの大切さに納得がいく。

世界人口を77億人として、中国抜きの場合、世界の人びとをつなぐ「回線数」は1984京4999兆9968億5000万になる。もしそこに中国14億人が加わると、2964京4999兆9961億5000万回線となって、その差はざっと980京――。

巨大すぎて実感できない数字を連ねたのは、戯れにせよ、中国の参加・不参加で世界が被る利便・不便を強調したかったからだ。

このことは、外部との接続を断ちたがる中国指導者に、冷静な損得計算を促さずにはおかないはずだ。情報鎖国を選ぶ国は、国内人口がたとえどれほど多かろうが、つまるところ自らの窮乏化を選ぶも同然だからである。

大阪トラックを打ち出した今回のG20は、データが経済を動かす時代、データを人類の公共財として評価したうえ、その「DFFT」を訴えた点で、将来の年表に刻まれる意味をもつ。 

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