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「トヨタ超えの株価」でも、テスラが世界一になれない理由

2020年10月29日 公開
2022年10月27日 更新

渡邉哲也(経済評論家)

 

大危機に強いトヨタのリスクマネジメント

では、日本の自動車メーカーはこのままテスラの後塵を拝すのか――。

そうとは思えない。日本では、とくにトヨタの健闘が目立つ。2021年第1四半期(2020年4~6月)の連結純利益は前年同期比74.3%減となったものの、1588億円を確保。フォルクスワーゲンや米GMが最終的に赤字になったのに対して黒字を出した。このコロナ禍で、日本を代表する企業の面目躍如たる活躍ぶりだ。

これには、トヨタのサプライチェーンが一つではないことが奏功している。トヨタには、日本だけで九州、愛知県、東北の三つのサプライチェーンがあり、アジアではベトナム、タイなどサプライチェーンを分散化させている。

アメリカでは、アメリカトヨタのサプライチェーン内で組み上がるようにしている。ジャストインタイム生産システムの看板方式により、セブンイレブンのような地域別のサプライチェーンで極力完結できるようにしている。

一方、日産やホンダのサプライチェーン比率は40%程度で、ほとんどが中国製の部品に依存する。今般のコロナ禍のように、中国から部品が供給されなくなれば、生産自体が止まってしまう。

それに対してトヨタは、各地域でそれぞれのサプライ先を持っているから早期に生産を再開できた。部品の中国依存度がそれほど高くなかったことが、危機において会社を救う結果となったのである。これは地震などの天災を含め、過去に痛い目に何度も遭った経験から学んだ結果と言えよう。

徹底した危機管理で難局を乗り越えたトヨタに対して、日産はルノーと一緒になって、欧州型のグローバルサプライに切り替えたことが完全にあだとなった形だ。地産地消型を忘れたグローバルモデルに転換したために、致命傷に近い傷を負う結果につながった。

こうした地域に根差したビジネスを行なうトヨタの順応性はテスラにはない。日本が誇るグローバルカンパニーとして今後も「自動車業界の覇者」であり続ける可能性は高い。

もちろん、日本の自動車メーカーのトップを独走するトヨタにも課題はある。トヨタの収益に大きな割合を占める中国事業である。

中国でビジネスをしていても、利益を持って帰れないから現地で再投資するしかない。投資を繰り返せば、バランスシート(貸借対照表)上の売り上げだけが大きくなっていき、大きなリスクになりつつある。それをどうするか、トヨタの出方には注目しておきたい。

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