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「パソコンのメーカーが対応できないトラブルが起きたとき、頼れるサービスがある」

2016年02月12日 公開
2016年11月11日 更新

家喜信行(日本PCサービス社長)

日本PCサービスはなぜ信頼されるのか

いま、「パソコン難民」が増えている。「パソコンと周辺機器の接続ができない」「急に電源が入らなくなった」……といった経験をした人は多いはずだ。だが、メーカーに依頼できるのは初期設定や物理的な修理までで、周囲に詳しい人がいなければお手上げだ。この状況を打破しようと動いた起業家が、2003年に起業した「日本PCサービス」の家喜信行社長(39歳)。彼の言葉の裏には、日本の大問題が潜んでいた。

 

取材/構成=夏目幸明

 

ITの進化にサポートが追いつかない

 

 夏目 パソコンのことで、何にお困りになる方が多いのですか?

 家喜 大きくは3つあります。第1位はつねに「パソコンが起動しない」です。第2位は「インターネットにつながらない」。第3位が「データを復旧したい」。時期によってもトラブルの内容は変わります。年末になると「年賀状をつくるため1年ぶりにパソコンを立ち上げたが、パソコンが動かない」「プリンターと接続できない」という事例が多発します。「Windows10にアップデートしましょう」というOSのバージョンアップへの対応についても、何らかのトラブルで正しくインストールできず、元に戻すこともできない、というご相談が数多くみられました。

 夏目 パソコンのトラブルに見舞われる人の数は増えているんですか?

 家喜 激増しています。当社はいま、全国のお宅に年間13万件ご訪問していますが、件数は年々増加しています。デジカメやスマートフォンなど新しい機器が登場し、便利になったのはよいのですが、その分、使い方がわからない人が増えています。便利にはなったものの、使い方を習熟できない人は置いて行かれてしまうか、むしろ困ってしまう……そんな社会はよくありません。

 夏目 家喜さん自身も、創業当時は、現場でパソコンのトラブル解決をしていたと聞いています。具体的には、どんなことがありましたか?

 家喜 たとえばデジタルカメラが登場し、携帯電話にカメラが付きましたが、なかには記念の写真を電話やカメラに入れたまま、という方も多い。しかし、電子機器はいつか、買い換えることになります。そんなとき、年齢や性別を問わず、昔のデータを新しい電子機器に移し替えることができない方が多いのです。また、デジカメや携帯が壊れてしまい、中に入ったお子さんの写真や、すでに亡くなった方の写真が取り出せない、というトラブルも多発しています。

 ほかには、パソコンの起動に20分もかかるが、どうしたらよいかわからなかった、というお客さまもいました。さすがにおかしいと当社にご連絡をいただき、拝見したら、パソコンのなかから続々とコンピュータウイルスが出てきて、除去したら新品同様の速さに戻った、という例もありました。

 夏目 パソコンやデジカメのメーカーがサポートしてくれてもよさそうですが?

 家喜 パソコンや携帯電話が高値で売れた時代は、手厚いサポートができたのです。しかし現在は、海外製品に押され、低価格化しています。一方、コールセンターの方たちの雇用には莫大な費用がかかります。電話がつながりにくく、つながっても「初期化には対応します」といった画一的な対応になるのは、私も、仕方ない事情なのだと思います。

 一方、電子機器は今後、もっと普段の生活に欠かせない道具になっていくと思われます。電気自動車やスマートハウスが登場し、今後はたとえば「冷蔵庫とスマートフォンが接続できて外出先から冷蔵庫の中が確認できるようになる」といったサービスが可能になるでしょう。ほかにも電気自動車とシャッターとスマートフォンを接続すれば、スマートフォンのボタン一つで車を起動し、シャッターを開けることも可能です。しかし私には、全員が問題なく利用できるとは思えません。便利になれば必ず「動かない」「何とかして!」という、お客さまのいらだちや叫び声が聞こえてくるのです。このままでは多くの人たちが置き去りになりかねない、という危惧をもっています。ITの進化に、サポートが追いついていない印象なのです。

 

家に来てくれるサービス文化がなかった

 

 夏目 2003年9月に創業したときの経緯をお教えください。

 家喜 私は大きな企業で営業をしていたのですが、会社と私の方針が合わなかったため、退職して何かで起業しようと考えました。そんな折、関東で中古パソコンのリサイクル販売をしている企業があると知ったんです。私は営業で電子機器を販売し、接続や設定を頼まれることがありました。そこで、地元の大阪でパソコンサポートの店舗を構えたのです。

 夏目 ご苦労もあったのでは?

 家喜 苦労なんてものじゃなく、1年間ほど、いつ倒産してもおかしくない状況でした(苦笑)。当時は知名度もありませんでしたし、そもそもパソコンを専門業者に頼んで修理してもらうという「文化」が根付いていませんでした。パソコンのメーカーが対応できないトラブルが起きたとき、頼れるサービスがある、という認識が広まっていなかった。

 水回りやカギのトラブルでは、小回りが利くサービスが認知されているのですが……。

 夏目 仮に水道のトラブルであれば、いきなり自治体の水道局やTOTOに電話するのでなく、水道工事・修理会社のクラシアンさんなどに電話しますよね。

 家喜 まさにそうです。パソコンも、物理的な修理や初期設定はメーカーにお電話いただき、その他の「すぐに何とかしたい」「メーカーに頼むことじゃない」トラブルは、当社のような業者にご依頼いただけばよいのです。ところが、そういう文化がない。現在、起業して12年ですが、いまも「家に来てくれるサービスがあるなんて知らなかった」といわれます。

 夏目 「文化」ごとつくっていくことになった。

 家喜 私は店舗のオープンとともに、チラシを200万枚まきました。その結果、お問い合わせは5、6件、サービスをご利用いただいたのはたった3件でした(苦笑)。チラシを見ても、店舗の前を通りかかっても、何のサービスかイメージが湧かないのです。

 しかも、ユーザーの多くが「パソコンにトラブルが起きたら初期化しなくてはいけないもの」と諦めていらっしゃるんです。当社はスマートフォンのサービスも実施しています。しかしユーザーの多くは、仮に水没させてしまった場合、「起動しなければ写真は諦めて、連絡先は入力し直そう」と思ってしまいます。しかし実際は、水没しても電源が入らないだけで、なかのメモリーは取り出すことが可能な場合が多い。当社なら、このメモリーの中身を、新しい携帯電話に移し替えるところまでサポートできます。

 夏目 大変な作業ですが、社会をよりよくする仕事でもありますね。

 家喜 やり甲斐はありました。亡くなった方がパソコンで株の売買をされていて、ご遺族はパスワードがわからず「このままでは資産がどうなるかもわからない」と途方に暮れていたことがあります。当社はすぐ証券会社と連絡を取って亡くなった方の証券口座から合法的にパスワードを入手し、無事に手続き等を行なって、のちにご遺族はお金を引き出すことが可能になりました。就職試験のため、インターネット経由で試験を受けたいんだけれど、回線トラブルで受けられない、と泣いている就活生の女の子の事例もあります。どうしてもその企業に入りたい、と当社にご依頼があったので、回線状況をよくするだけでなく、テスト終了まで付き添いました。さらに亡くなった方や、お子さんが小さいころの写真など、二度と撮影できない画像データを復旧すると、これを見て号泣されるお客さまもいらっしゃいます。

 夏目 会社が軌道に乗るまでにはどんなことが?

 家喜 創業1年で、貯金していた自己資金の2000万円は底を突き、事業計画を立て直して、金融機関から資金を借りたときは、背水の陣でした。事業に新規性と社会性があるからと、金融機関のご担当者が「無担保でお金を貸すのは初めてです」と資金を用立ててくださったのです。じつをいうと妻には、前の会社のときに貯めたお金を取り崩し「私のお給料だよ」と渡していました。不安にさせたくなく、ごまかしていたのです。いちばんきつかったのは、子供の三輪車が買えなかったとき。まだ2歳だった子が、しゃべれないから、顔と体をいっぱい使って「これ欲しい」とアピールするんです。あと、私が休むと家族が心配しますね。2連休などして家にいようものなら、仕事がないのではないかと(苦笑)。

 夏目 ここらでやめよう、とならずに「この仕事だ!」と思いつづけられた理由は?

 家喜 やはり、お客さまに感謝されるからです。しかも「自分たちがやらなければほかにやってくれる人は誰もいないにちがいない」という思いもありました。

 そんななか、私は新たな展開を思い付きました。「個人のご自宅のなかに入り込んでいる企業と提携し、仕事をいただけばよいのでは?」と考えたのです。警備会社や、水回りやカギのトラブルのときに電話する企業と提携し「パソコン訪問サービスも始めました」とメニューに加えていただければよいのです。そして、お客さまをご紹介いただいたときに売り上げの一部をキックバックすればいい。企業は新たなサービスをお客さまに提供でき、利益も挙げられます。すぐに、対象となりそうな企業をリストアップし、ホームページで社長のお名前と電話番号を控え、電話をしまくりました。ところが、どなたも相手にしてくれません。そして、借りた資金ももう尽きてしまう寸前だった2004年3月、私は「生活救急車」を展開するジャパンベストレスキューシステムの榊原暢宏社長から「いまなら会えます。新大阪まで来られますか?」とお電話をいただいたのです。すぐ駆けつけ、事情を説明し、「生活救急車」のメニューにパソコンのトラブルサポートも加えていただきました。

 夏目 そこから仕事をもらえるようになっていった。

 家喜 はい。実績を積み重ねると、たとえば東芝さんやシャープさん、NECさんなど、大手パソコンメーカーさんとも提携を結ぶことができました。説明書やチラシに「パソコン緊急サポートやってます」といった内容の告知をしてくださっています。そして企業ごとに、0120で始まる固有の電話番号があって、当社に電話があるとオペレーターは番号を見て「もしもし、パソコンサポートです」と対応します。そして、東芝さんの取扱業者としてサービスを行ないます。

 当社と提携するまで、メーカーさんにとってサポート対応は重いコストだったのです。しかし当社と提携し「お急ぎの場合はこちらへ」とお客さまに当社をご紹介いただけば、サポート件数が減り、コストから収益化できます。その点をご評価いただけ、じつはいま、全国約400以上の企業が当社と提携してくださっています。

 苦しい時代に、当社を信頼し、業務を任せてくださったご担当者の顔を思い浮かべると、いまも涙が出るほどありがたく感じます。

 

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著者紹介

家喜信行(いえきのぶゆき)

日本PCサービス社長

1976年、兵庫県生まれ。桃山学院大学卒業後、ITパッケージソフトの販売会社に就職。トップセールスを約2年間続ける。2003年に株式会社マネージメントクリエイティブを設立し、代表取締役社長に就任。08年に日本PCサービス株式会社に改称。14年11月名古屋セントレックス証券取引所に上場。サポートなどの問い合わせ番号は、フリーダイヤル0800−555−0049

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)

ジャーナリスト

1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店に入社。その後、雑誌記者に。小学館『DIME』の「ヒット商品開発秘話 UN.DON.COM」や講談社『週刊現代』の「社長の風景」などを連載。
著書に『ニッポン「もの物語」』(講談社)『大停電(ブラックアウト)を回避せよ!』(PHP研究所)などがある。

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