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ヒラリークリントン候補に追い風となる「銃乱射事件」「ISテロ」

2016年07月20日 公開
2022年12月19日 更新

丸谷元人(ジャーナリスト/危機管理コンサルタント)

じつは自身も「ゲイ」であった犯人

 一方、当時店内でDJとして働いていたという人物は、事件後の米ABCの中継で、自身はまったく犯人の姿を目撃しておらず、銃声だけが聞こえたとしており、彼の周辺で一緒に隠れた人たちは誰も撃たれなかったことや、銃声が聞こえた時点で警備員が客たちをいくつものドアから脱出させたため、犯人が店の中に入ったころには客はほとんど誰もいなかった、と証言している。いったい、どの証言者が正しいのであろうか。

 容疑者については、他にも不審な点が多い。まず、ISとの接点については、犯人が警察にかけたとされる電話交信以外はまったく確認されていない。たしかにISは「犯行声明」を出したが、彼らは自分たちが関与していない事件でも当事者が死亡していれば、「自分たちがやった」と主張する。死人に口なしだからだ。また犯人の父親は「息子は男同士がキスするのを見て激怒していた」と述べたが、じつは犯人自身もまたゲイであり、事件現場の店の常連であったことも明らかになっている(『デイリー・テレグラフ』6月15日)。つまり今回の事件は「ISテロ」や「LGBT憎悪」とはほとんど関係がないのだが、オバマ大統領の演説やマスコミ報道によって、すでに人びとの脳裏には「ISテロ」「銃犯罪」「ゲイ差別」といったキーワードが刻み込まれてしまっている。

 では事件の本当の背景とは、何なのだろうか。これは本当にマティーン容疑者が単独で引き起こしたものなのか。じつはオバマ政権になって以降、今回の事件に似た不可思議な事件が他にも発生している。その一例として、昨年カリフォルニア州で発生した「サンバーナーディーノ銃乱射事件(以下、SB事件)」を見てみたい。

 

容疑者がすり替わった銃乱射事件

 これは2015年12月2日、カリフォルニア州サンバーナーディーノの障害者支援施設を重武装の若いイスラム教徒の夫婦が襲撃、14人を射殺し、17人を負傷させた事件だ。

 しかしこの事件の犯人の夫は地元保健局に勤務し、約890万円の年収があり、父親になったばかりの幸せな生活をしていた。勤務先の上司はこの夫をして、過激思想の兆候など見せたこともなく、「とても真面目で熱心」「まともな人間」であり、「誰かと口論になることも、もめ事に巻き込まれることもない」人物だったと話している(BBC放送日本語版 2015年12月7日)。

 一方の妻は、体重はわずか40kgほどの小柄で静かな女性だった。その彼女が、生後わずか半年の赤ん坊をいつものように母親に預けたあと、夫と共に重い軍用戦闘ベストと光学照準器の付いた最新式自動小銃、パイプ爆弾で武装し、やはり歴戦の特殊部隊員並みの射撃術で逃げ回る人々を次から次へと薙ぎ倒したというのだ。

 しかし、現場の施設で事件に巻き込まれたある女性や、近くを通りかかった男性目撃者は、いずれもマスコミ取材に対し、「犯人は背が高く、鍛え上げられた肉体をもち、同じ黒い装備を身に着けた3人の白人男性」であり、「黒いSUV車で逃走した」と証言している。

 FOX11も事件直後、警察が軍用装備の白人男性3人を追っている、とツイッターで伝えているし、当時ヘリで事件を上空から追っていたMSNBCテレビの中継映像には、3台の警察車両に取り囲まれて停止している黒いSUV車が捉えられており、レポーターはそれを見ながら「3人の犯人」が逮捕されたと報じている。

 しかしその後に犯人として特定されたのは、イスラム教徒の若い夫婦であった。不思議なことに、警察と銃撃戦を演じて射殺されたはずの彼らの遺体は、うつ伏せのまま、両手両足を後ろで縛られた状態で逃走車両の中から発見されている。夫婦の弁護士はCNNの番組で死体発見時の不自然な状況を指摘し、軍隊での訓練経験がない夫婦があんな具合に銃を扱えるわけがないとして強い疑義を呈している。

 

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