ミドリムシで地球を救う!夢を実現したベンチャー精神~出雲充・ユーグレナ代表取締役社長
2017年09月22日 公開 2017年09月23日 更新
“一歩を踏み出す勇気”が成功の扉をひらく
全長わずか0.05ミリメートルの微生物が世界を救うかもしれない――大学生時代にミドリムシ(学名ユーグレナ)の可能性に魅了された出雲氏は、世界で誰も成功したことのない屋外大量培養と事業化に挑んだ。着想した多くの人が途中で断念せざるをえなかった事業を、出雲氏はなぜ実現できたのか。不可能を可能にしたベンチャー精神の原点をうかがった。
取材・構成:若林邦秀
写真撮影:長谷川博一
本当に好きなら、道はひらける
私は「ご縁」に恵まれました。「ミドリムシで地球を救う」なんて壮大なことを言い放つ人間のもとに、知恵を貸し、力を貸し、資金を援助してくださる方々が集まるのです。
「ミドリムシは儲かりますよ」と呼び掛けたことは一度もありません。そもそも、私自身が「ミドリムシで大儲けしたい」とは思っていませんから、「儲かりますよ」とお誘いしても、全く説得力はないでしょう。
私のまわりに人が来てくださったのは、儲かるからでも、私に人を引きつける魅力があったからでもなく、ミドリムシで事業化という途方もない挑戦に本気で一歩踏み出したからだと思っています。
たいていのものは何でも手に入るようになった今の日本で、これ以上ほしいものといっても、正直なところ特にないという人も多いでしょう。
でも、「途上国の子供たちが健康に成長してほしい」とか、「バイオ燃料で日本のエネルギー問題を解決したい」と思う人は大勢いるのです。それに向けて私が一歩踏み出したから、「面白い!」と言って多くの人が集まってくださった。私に引き寄せる力があったからではなく、皆さんが同じ思いを持っていた。私が会社という目に見える形にしたから、思いを持つ人が集まれるようになったのだと思います。
ですから、「人を引きつける力がないから」「利益を上げることが難しそうだから」といって、「自分はベンチャーには向いていない」と思う必要はありません。
要は本気かどうか、心からそれが好きかだけが問われるのです。とてもシンプルなことだと思います。人が本気でやっているか、心の底から好きでやっているかは、少し話せばすぐにわかるものです。
考えてみれば、パナソニックも、ホンダも、ソニーも、はじめはベンチャー企業でした。世間に冷たくされても、本気で好きなことを追求したからこそ、理解者・協力者が現れて、世界的企業にまで発展したのです。
ただし、当時は経済成長の過程で次々と「物」が求められた時代でしたが、今は違います。社会が成熟し、あらゆる面でほぼ完璧なものが出そろっています。不完全さが許されないような空気の中で、新しい何かにチャレンジしていくのは、ベンチャー企業にとって大変過酷な時代かもしれません。
一方で、日本でも昔は資本金が1000万円なければつくれなかった株式会社が、1円から簡単にできるようになるなど、昔に比べると有利な面もあります。
「道をひらく」のが難しい時代であるからこそ、本気で道をひらこうと新しいことにチャレンジをする人には、応援しよう、ともに頑張ろうと言ってくれる人が必ず現れます。
最初は怖いかもしれませんが、勇気を出して一歩踏み出してみる。一歩踏み出すと、驚くほど、見えないところで支えてくれる人が現れる。それが今の日本だと思います。
それを信じて、いろんなベンチャーが出てくれば、大きなイノベーションのうねりになっていくはずです。その一石は、誰でも投じることができるのです。ミドリムシでもできたんですから、他でできないはずがありません。
※本記事はマネジメント誌『衆知』2017年5・6月号に掲載したものです。