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移民の犯罪率は実は低い?…イメージと実態のギャップに揺れる「移民の国」アメリカ

西山隆行(成蹊大学法学部教授)

2020年02月21日 公開 2022年01月26日 更新


ヘルシンキサミットでのトランプ大統領(2018年7月16日)
(写真:ロシア大統領府公式サイト www.kremlin.ru)

トランプは、「メキシコからやってくる移民は麻薬密売人や強姦魔だ」という発言に代表されるように、公民権運動以来アメリカで共有されてきた「マイノリティと位置づけられる人々の権利や尊厳を尊重すべきだ」という規範を無視し続けている。

アメリカは建国期から一貫して多様な人々を受け入れてきた多民族国家である。もちろん、トランプに対して強い反発を示すアメリカ国民は多い。だが、2016年大統領選挙でトランプに投票した人々の多くは、今でもトランプを支持し続けている。

アメリカ政治を理解する上では、多民族社会の実情を知る必要がある。本稿では、アメリカにおける移民問題の一端を紹介したい。

※本稿は西山隆行著『格差と分断のアメリカ』(東京堂出版刊)の内容を一部抜粋・編集したものです。

 

多様性と統合の両立を目指す

歴史的にアメリカは、数多くの移民を受け入れてきた。

多民族・多宗教国家として誕生したアメリカは、それぞれの人種・民族的文化の多様性を尊重するとともに、社会全体としての統合も維持するという困難な課題に取り組んできた。

国璽(こくじ=国家の印章)などに刻印されている "E Publius Unum" という表現は「多から成る一」という意味のラテン語であり、様々な移民を受け入れる多民族国家としての理想を表現している。

他方、人種的・民族的差別が行われており、社会経済的格差が人種・民族ごとに厳然として存在するのも事実である。

しばしば「移民の国」と称されるアメリカには、「ヨーロッパの君主制や宗教的迫害から逃れてきた移民が建国した国」だという神話が存在する。ただし、この神話には留意すべき点が少なくとも二つある。

一つは、一般的な用語では、君主制や宗教的迫害から逃れてきた人々は難民と呼ばれ、自発的意思に基づいて移住してきた移民とは区別されていることである。

アメリカ国民の典型例として想定されているのは実は難民であることも多く、それがアメリカが他国と比べて多くの難民を受け入れていることの背景にある。近年では年間7万~8万人を受け入れることが多かったが、トランプ大統領は2018年度の受け入れの上限を4万5000人とすると宣言するなど、難民受け入れを制限する方針を明確にしている。

なお、難民受け入れには人道的意味合いだけでなく政治的意味合いも含まれる。

ある国から難民を受け入れるということは、その国が道義的に好ましくないと宣言することを暗に含んでいるため、戦略的重要性を持つ国や経済関係が深い国などから難民を受け入れるのは困難になる。

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