日本に根づかない根本原因
しかし、これこそが日本にOKRが浸透しない理由でもあるだろう。律儀な日本人は「6、7割でいいといっても、やっぱり目標はきっちり達成すべきではないか」と考えがちだし、会社も会社で「6、7割でいい」と言いながら、結局100%の達成を求めたりする。
その根底には、戦後の日本が目の前の目標を律儀にコツコツと達成し続けることで、成長を続けてきたという成功体験があるように思う。
しかし、そうした成長モデルは高度経済成長の終焉とともに通用しなくなり、一方、アメリカや中国は、高い目標を掲げそれに挑戦することで成長してきた。
パーパスというはるか遠くにある「北極星」には、現実的なゴールの積み重ねではいつまでたってもたどり着かない。その意味で、OKRはパーパス経営と極めて親和性の高い手法と言えるのだ。
結局「押しつけ」では浸透しない
花王のOKRの取り組みは日本企業には珍しくとてもうまくいっているのだが、そのポイントは「OKRと業績評価とを連動させない」ということにあるようだ。
OKRと業績を連動させると、どうしても恣意が入ってしまう。例えば、OKRでは6、7割の達成率が良いとされているが、評価が悪くなることを恐れて、達成できそうな目標を掲げてしまう。律儀な性格と相まって、はじめからできないとわかっている目標を掲げることを、躊躇してしまうのだ。
業績評価との連動がなければ、自分で好きなようにOKRの設定ができる。より重要なのはこれが「自分で決めた目標」であることだ。だから、目標が達成できないと自分が悔しい。
次こそ達成してやろうと思う。これを花王の人は、「前向きに倒れる」というユニークな表現をしていたが、だからこそ、いずれ目標にたどり着くことができるのだ。OKRはその手助けをしてくれる極めて優れたツールだといえよう。
今回紹介した「アワード」も「OKR」も、どちらも社員の自主性を引き出す施策だ。パーパスは押しつけでは決して浸透しない。社員が自主的にパーパス実現を目指して動きたくなるような施策をぜひ、取り入れていただきたい。
【名和高司(なわ・たかし)】
1980年、東京大学法学部卒業、三菱商事入社。90年ハーバード・ビジネススクールにてMBA取得(ベーカー・スカラー)。その後、約20年間、マッキンゼーのディレクターとしてコンサルティングに従事。2011〜16年、ボストンコンサルティンググループのシニアアドバイザー。14年より30社近くの次世代リーダーを交えたCSVフォーラムを主宰。10年より一橋大学大学院国際企業戦略研究科特任教授、18年より現職。多くの著名企業の社外取締役やシニアアドバイザーを兼務。