若者の不安の正体
仕事の負荷が低く上司も優しい会社に勤めていながらも、何が若者を転職に駆り立てているのでしょうか。全体として、仕事がゆるいと感じている人と、そうではなくどちらかというときつい、と感じている人はおよそ半々程度で分かれています。
その中でも注目すべきことは、仕事がゆるいと感じている人の多くがこのまま所属している会社で仕事をしていても成長できないと感じている、という傾向です。そしてその半分以上の人が2・3年以内で転職する意向を持っているようで、最も転職意欲が高い層であることがわかっています。
今の20代の人は過去の若手が感じていたような仕事のきつさが減った一方で、成長実感が得られないために転職を検討しているのです。
Z世代は仕事よりもプライベート重視で楽な仕事を求めている、という印象が間違っていることが示唆されます。実際には今の若手メンバーは大きく2つに分かれています。
およそ半分の人は楽になった仕事に満足しているようですが、残りの半分は仕事にゆるさを感じていてもっと成長できる環境を求めているのです。このことから、転職の形も不満型転職から不安型転職にシフトしている傾向がうかがえます。
コスパと若者の分断
近年タイパやコスパを重視する人が増えていると言われています。その傾向ですらも、大きく2つに分かれています。
片方ではできるだけ仕事の時間を減らして時間当たりの収入を増やそうという意向が感じられますが、もう片方は自分の履歴書に書けるようなプロジェクトを渇望していて特定の分野で第一人者になれるステップを求めているようでもあります。つまり後者は時間当たりの自分の成長率というタイパとも言えます。
そのような20代の働き手が増えてきた中で、会社としてはどのような環境を提供していくべきでしょうか。本書には仕事における成長実感との関係が深い項目を多変量解析により明らかにしている箇所があります。
その結果から、上司や同僚との関係負荷は小さい方が良いのと同時に、仕事そのものの挑戦度合いとなる質的負荷が高い方が良いということです。優れた企業文化は、人同士の不要な摩擦を抑えるとともに、仕事に対する挑戦も必要で、高い目標や難易度の高い仕事が尊重されるようなものだとも言い換えられます。
今の20代の人材は、「ありのままでありたい」という思いを持つと同時に、「なにものかになりたい」という欲求を抱えているようです。単純に仕事の負荷を下げてホワイト企業であれば人気企業になるではなく、人間関係は円滑にしながらも仕事に対してチャレンジを課せる企業が求められているのです。